
最終章
ラブソングは君と⑦
ニノとそういうことがあってから、俺達は一度も連絡を取る事もなく半年の月日が流れた。俺の心の中はぽっかりと穴が開いたみたいで、どんなに仕事しても酒を飲んで紛らわそうとしても決して満たされることは無かった。
夢だった個展の開催も今日が最終日を迎えていた。
「大野さん、おめでとう。大盛況だったみたいですね。」
「あっ、相葉くん。立派なお花を有難うね。」
「もう、色々忙しくてなかなか大野さんところにも行けなくて。でも個展には絶対顔出そうって決めてたから。」
「忙しいの知ってたし、今日も無理しなくて良かったのに。」
「僕の仕事がうまくいってるのも、大野さんと二宮くんのお陰ですから。・・・あ、二宮くんは?個展は観に来たの?」
俺は首を横に振ってみせた。
「そうかぁ。来てないんだね・・・大野さん、今日はこの後打ち上げだよね?」
「あ、うん。潤君が祝賀パーティをやってくれるらしいの。」
「それ終わってから、ちょっとだけ会えませんか?」
「えっ?今夜?」
「うん、大事な話っていうか、ご報告したいことが有るの。」
「あ、うん。じゃあ良かったら相葉君も祝賀会来ない?」
「ううん、僕は終わるくらいに会場に迎えに来ますよ。連絡貰えるなら・・・」
「分かった。それじゃ予定では午後9時頃には終わるって聞いてるからそのくらいになるけどいいかな?」
「うん、分かった。それじゃ、またそのくらいにお迎えに来ます。」
相葉くんの大事な話っていうのは、恐らくニノのことだろうと察しはついてた。
相葉くんは、時々ニノと会ってたというのは聞いていたんで、何かしらニノの情報だとは思うけど。
「大野さーん、二次会どうする?」
「あ、潤君、おいらこれから相葉くんと約束してるから・・・」
「なんだぁ、そうなの?」
「あ、そうそう・・・山下君はその後元気にやってる?」
「ゴメンね。勝手に山下君のことモデルにしちゃったから、大野さんあの後人員不足で大変だったよね。」
「おいらはいいけど、奈緒ちゃんが大変だったよ。新たに採用するって言ったら、自分が頑張るからもう新しい人採用しないでって言われるしさ。」
「もうニノも居なくなっちゃったんだし、奈緒ちゃんとのこと真剣に考えてあげたらどうなの?」
「じょ、冗談でしょ。そうだ、奈緒ちゃん最近はおいらじゃなくておいらの友達がめっちゃ気に入っててさ。」
「へえ・・・そうなんだ?」
「うん。だから、彼女もおいらのことは今は眼中に無いよ。」
そう・・・奈緒ちゃんの今のお気に入りは翔君なんだ。翔君はあれから何度か俺の仕事場に遊びに来てくれてるから、何をきっかけにそうなったかは分からないけど、とにかく奈緒ちゃんは翔君にすっかり心を奪われてるといった感じ。
そんなことはないと最初から諦めてはいたものの、個展の開催をあんなに喜んでくれてたニノだったから、もしかするとちょっとでも様子を見に来てくれるんじゃないかって、心の何処かで期待してる自分が居たりしたのも事実。だけど結局、ニノは俺の前に姿を現すことは無かった。
祝賀パーティも滞りなく終了し、相葉くんが俺を迎えにやって来た。
「大野さん、お疲れ様でした。」
「あ、相葉くん。ゴメンね、お待たせ。」
「ううん、全然・・・それじゃ行きましょうか?」
「行くって?」
「ああ、何処でもいいですよ。大野さん飲み足りないでしょ?どっか飲みに行きますか?」
「久し振りにあそこ行こうかなぁ・・・」
「あそこ?」
「うん・・・行きつけだったBarなんだけどさ、最近は全然行ってないから。」
「へえ。じゃ、そこにしましょうよ。」
「うん。」
俺がニノと再会したあのBar・・・もう1年近く行ってないもんな。俺は相葉くんを連れて久し振りにそのBarを訪れた。
「いらっしゃいませ。」
「マスター、お久し振り。」
「大野さんじゃないですか?お久し振りですね。」
「ゴメンね。色々忙しくてなかなか来れなかったんだよ。」
「あ、相葉さんも大野さんとお知り合いでしたか?」
「えっ?相葉くんもここ来てたの?」
「この前一度だけ二宮くんに連れてきて貰ったんです。」
「そ、そうなんだ?」
「マスター、おいら何時もの・・・」
「ウィスキーロックでしたよね。」
「うん。」
「じゃあ、僕はビールで・・・」
「かしこまりました。」
「ニノと・・・来たんだ?」
「あ、うん。先月だったかな。」
「あのさ・・・あ、いや。なんでもない・・・」
ニノは結婚したの?って聞きたかった。でもやっぱり怖くてそれを聞けない。
「お待たせしました。」
マスターがビールとウイスキーのロックを俺達の目の前に置いた。
「ありがと・・・ほんじゃ、乾杯・・・」
「お疲れさまでした。カンパーイ。」
「マスター、ニノは時々ここに来てるの?」
「ええ。月イチ位のペースってとこですかね・・・」
「そ、そんなに来てるんだ?」
「何時もお一人でカシスオレンジを頼まれて・・・」
「んふふっ・・・懐かしいな。」
「あの、大野さん・・・」
相葉くんが俺に一冊の本を差し出した。
「ん?何?」
「これ・・・今度出版されることが決まった僕の小説なんですけど。」
「え・・・」
俺はその本を手に取った。「ラブソングは君と」ってタイトルだった。
「何?新しい恋愛小説?」
「それ実は二宮くんが僕にちょこちょこ会いに来て話を聞かせてくれた、大野さんと二宮くんのお話なんですよ。ようやく完成したんです。これをまずは大野さんに読んで貰いたくて。」
「そ、そうなの?」
「自分で言うのもなんだけど、僕が書いた小説の中では一番の感動作に仕上がってるんです。」
「マジか・・・」
「小説は完結してますけど、お二人の関係はまだ終わってませんよね?」
「ええっ?どーなのかな・・・おいらにも分かんないけどさ、ニノと最後に会った時にニノは婚約したと言ってたから、もう終わったのと一緒だと思ってるけど。」
「大野さん・・・これ言っちゃっていいのかなぁ。」
「ん?何を?」
「実はね、彼・・・結婚なんてしちゃいませんよ。」
つづく