
急展開③
「さ、お待たせ。準備が出来たわよ。」
「うわぁ、美味しそうだな。」
「そりゃあ、高級なカニだからマズくはないでしょ。」
ニノはさっきの事をまだ根に持ってて、めちゃくちゃ機嫌が悪い。
「ほら、カズは大野さんにビールくらい持ってきなさいよ。もう、本当に気が利かないんだから。」
「うっせえなぁ。」
「あ、ビールくらい自分で取りにいくよ。お母さんも飲まれますか?」
「ええっ?でも後片付け出来なくなるから、私は遠慮しとくわ。」
「そんなこと言わないで、一緒に飲みましょうよ。」
「やっぱりやめとくわ。明日は帰って仕事だし。」
「そ、そうですか?」
こうなったらおばさんを酔わせて先に寝てもらう作戦に出ようとしたけど、そこはあっさり拒否られた。
「それより、大野さんのご実家はどちらなの?」
「あ、実家も三鷹です。ここからそう離れてないんです。」
「へえ、そうだったの。実は私の両親も三鷹だったのよ。この子が小さい頃は両親に預けて働きに出てたのよ。」
「なんか、そうらしいですね?」
「あ、もう聞いてたの?」
「ええ、それも最近聞いた話ですけど。」
「それじゃ、カズが子供の頃誘拐され掛けた事件は聞いた?」
「えっ?誘拐?」
「も、母さん、そんな昔の話しなくていいよ。」
「だって三鷹って聞いたら直ぐ思い出しちゃうんだもの。」
「え、何?気になるよ。」
「この子が幼稚園くらいの頃ね、三鷹のスーパーへ買い物に連れてったんだけど、私が目を離した隙に勝手に表の公園に遊びに行っちゃってね・・・」
「もぉー、いいってば・・・」
「知らないおじさんに連れて行かれそうになったらしいんだけど、公園に居たお兄ちゃんが僕を助けてくれたんだって、もう嬉しそうにずっとその事を話すのよ。」
「へ、へえ。」
「よっぽどカッコよく助けてくれたんだと思うけど、もうカズはその見知らぬお兄ちゃんの事を忘れられなくてね。」
「母さん、もういい加減にそういう話は忘れてよ。恥ずかしいから。」
「絶対同じ公園に行けば会えるんだって、暫く数日おきに公園に様子を見に行くんだけど、結局は会えなかったのよね?その数か月後には箱根に完全に引っ越したから、もうその助けてくれたヒーローには会えず仕舞いになったんだけど。あれって、今思えばカズの初恋だったんだよねぇ。ウフフッ。」
「何だよ?そんなのガキの頃の話じゃない。」
「そうね、昔の話だけどあんたが男性の大野さんを好きになったのも、大野さんが頼りないカズのことを守ってくれるからなのかなって。」
そのニノを誘拐犯から守ったの、もしかしてこの俺じゃないの?忘れてた記憶がおばさんの話を聞いてるうちに鮮明に蘇った。
ま、まさか・・・でも、ニノも以前俺の実家が三鷹だって話した時、凄く驚いていたような?
俺はあの時木から転倒して怪我したから忘れる事はないけど、あの時風船握りしめて泣いてたあの可愛い幼稚園児がまさかニノだった?
それが本当なら、俺達が出会ったのは決して偶然なんかじゃない。俺達はいつかまた出会うべくして出会える運命だったんじゃないの?
「どうしたの?おーのさん。口がポカンとなってますけど。」
「はっ?あ、いや・・・な、何でもない。」
「母さんがそんな話するから、おーのさんもリアクションに困ってるじゃないの。」
「あら、そう?でも大野さんもまだまだカズの事知らないこと多いだろうから、教えてあげようと思って。」
「いいよ。そんなの母さんが教えなくても。」
「あ、あの・・・お母さん?」
「は、はい?」
「僕はこんな人間だし、自営と言っても年商がそこまであるような大きな仕事持ってる訳じゃないですが、和也君のこと全力で守ります!必ず幸せにします。だから、だからお願いです。僕達の事を認めて頂けませんか?」
「お、おーのさん?」
「本当にうちの子でいいの?」
「はい。」
「後から二人とも後悔しないのね?」
「しません。」
「大野さんがそこまで言って下さるのなら、あとはそちらのご両親が何と言われるかよね。」
「ホント?母さん。認めてくれるの?」
「その代わり、大野さんのご両親が認めてくれるというのが条件よ。認めて下さったら、ご家族とご親戚をうちの旅館にお招きして身内同士お顔合わせも兼ねての簡単な披露宴を開きましょう。」
「ええっ?ひ、披露宴?」
「何よ?反論でもある?」
「い、いや・・・分かりました。うちの両親にも近いうちニノを連れて話に行きます。」
「ちょっ、ちょっとおーのさん?」
「ニノ、何も心配しないでいいよ。」
話がまさかここまで大きく発展するとは思ってなかった。
でも、俺がおばさんに言った言葉は、何も作ったわけでも芝居とかでもなく、ごく自然に出てきた言葉だった。
つづく