真夜中の虹 51
智は俺との結婚の話をとにかく急ごうとした。勿論、それは俺も嬉しくない事ではなかったけど、自分たちの周りの大人が簡単に納得してくれるような話でないことは明らかだから、俺からすると出来るだけ波風立てる事なく静かに智と真琴と3人で暮らせればそれで良かった。それでも智が話を急ごうとしてくれてるのは、俺が小さい事をいちいち気にして不安を口にするからだ。
「カズ、そろそろ出掛けるぞ。」
「ねえ、本当に言うつもり?」
「もちろん。その為に実家行くんだから。」
「その・・・何もそんなに急がなくても良くない?」
「こういうことは遅かれ早かれキチンとしておかないとさ。」
「で、でも・・・」
「大丈夫だよ。ちゃんと説明すれば分かって貰えるって。」
智は何も分かってないんだ。そもそも智のおばさんは、真琴に新しい母親をと考えていて、それがまさか男の俺だなんて思ってもみないだろう。答えなんかもう聞かなくても分かってる。
「もし、反対されたらどうするの?」
「カズも心配性なんだから。大丈夫だってば。」
「反対されたら、俺達今のままではいられないんだよ?分かってるの?」
「今のままでいられないって?」
「一緒に暮らせなくなると思う。」
「大丈夫だよ。」
「大丈夫しか言わないんだ。もし大丈夫じゃなかったら、その時は覚悟出来てるんですね?」
「ええっ?」
「それじゃ、約束して下さい。もしお互いの両親に反対された時は、俺と駆け落ちするって。」
「かけおちぃ?」
「そのくらいの覚悟は持ってって言ってるんです。」
「わ、わかった。」
流石に俺が念押したからか、さっき程の自信はなくなったみたいで、若干口数が減ってしまった。とはいえ、行かないという選択肢は何処にも無くて、気が進まないまま俺達は真琴も連れてお互いの実家へと向かった。そして先ずは俺の実家へ着いた。
「母さん、連れて来たよ。」
「あらあら、和也の母です。和也から色々伺ってます。いつもお世話になってます。」
「初めまして。大野です。こちらこそお世話になってます。ほら、真琴も挨拶しろ。」
「こんにちは。」
「あら、こんにちは。真琴くん良い子ね。」
「おばちゃん、カズのお母さんなの?」
「そうよ。狭い家だけどゆっくりしてってね。」
「母さん、今日は大事な話が有るんだ。ちょっと座ってくれる?」
「えっ?何?」
「僕達、真剣にお付き合いさせて貰ってます。僕たちの結婚を認めて下さい。俺、和也君を必ず幸せにしますんで。」
「ええっ?けっ、結婚?だって・・・あなた達男同士でしょ。」
「母さん、ゴメンね。そういうことだから・・・あ、だけどほら、孫も既に出来たことだし。」
「そう・・・もう、あたしが何を言っても決めてるんでしょ?」
「うん。」
「大野さんのご両親は?何て?」
「あ、まだこれからなんだ。」
「お許しになるかしら?カズに真琴くんの母親が勤まるか・・・カズも、それなりの覚悟は出来てるんでしょうね?」
「う、うん。」
「大丈夫です。うちの親もカズの事はよく分かってくれてるんで。」
「それならばいいけど・・・」
ここまでは想定通り、うちの親は色々考えるところはあったものの、多少なりとも事前に智の事をあれこれ話しておいたので、意外とあっさり俺達の結婚を認めてくれた。問題は、智のご両親だ。
「良かった。おばさん、話の分かる人で。」
「俺はある程度は話をしておいたからだよ。さっ、次はあなたのご両親のところだよ。」
「心配いらないよ。うちもおいらがすることにいちいち口挟まないもの。多分聞いたら大喜びじゃない?」
この楽観視が一番怖いんだよ。俺とあなたが違う所、それはあなたには血を分けた大切な子供が居るって事。そして、真琴にはジョニーさんが残した巨額の遺産が関わってるってこと。智がいっそ、地位や名誉、金と一切無縁の人間だったらどんなにか良かったか・・・俺はこの時心底そう思った。
つづく