恋愛小説,  黄色い泪

黄色い泪24

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黄色い泪24

 

何とか大きなミスをすることもなく舞台は拍手喝采を浴びて幕を閉じた。俺としては短い台詞を噛まないようにすることだけで精一杯だった。

あまりの緊張に細かい事は全然覚えてなくて、閉幕した直後に俺は情けないけど気絶してその場に倒れてしまった。

気が付くと、会場の控室のソファーの上で横になっていて、薄い毛布が一枚身体に掛けられていた。

慌てて飛び起きると、中年の知らない老人が俺に話し掛けてきた。

「気が付いたかね?」

「えっ?あ・・・はい。」

「軽い貧血を起こしたみたいだな。夕べちゃんと寝てないだろ?」

「あっ、まあ・・・」

そりゃあ、緊張で眠れる状況じゃなかったから・・・

「あ、あの・・・失礼ですけど、あなたは?」

「僕はこういう者です。」

爺さんは俺に名刺を差し出した。

劇団 ジャニー・・・取締役・・・

「げっ、劇団?」

確か大野さんがオーディション受けたあの劇団だよな。何でその劇団のお偉いさんがここに?

「君さぁ、うちに来る気ない?」

「えっ・・・」

「君の演技、さっき会場で見せて貰ったんだけどね、是非うちでプロとして役者を目指さないか?」

「お、俺が?」

「勿論。」

「え?待って下さい。俺なんかまだ1年ですよ?しかも演劇部に入ってまだ2か月なんですよ?」

「私は経歴なんて重視しないんでね。素質の有る将来有望な人間には躊躇わずに声を掛けさせて貰ってる。」

「そ、素質?」

「二宮くんだったよね?前向きに検討しては貰えないかな?」

「いや、あの、俺は・・・」

「君にその気が有るのなら、私からご両親には納得して貰えるように説明に伺うから、一度真剣に考えてみてはくれないかな。」

「は、はぁ・・・」

「何時でもそこに連絡をくれていいから。それじゃ、私はこれで失礼するよ。」

爺さんはそう言って控室を出て行った。俺がソファーの上で色々理解出来ずに呆然としていると、演劇部の連中が控室に戻って来た。

「カズ!気が付いた?大丈夫か?」

「お、大野さん・・・」

「やったよ!コンクール、優勝だった。」

「え?ほ、本当に?」

俺が気絶してる間に結果発表が有ってたんだ。部員の人達の笑顔見て、俺はホッとした。と同時に、俺は手元に握ってたさっきの爺さんの名刺をそっとポケットに忍ばせた。

その後、学校に戻って3年の送別会を兼ねた祝賀会が開催された。

俺はまさかの劇団のお偉いさんからのスカウトにめちゃくちゃ動揺してたから、正直祝賀会どころじゃなかった。

「カズ?やっぱりまだ調子悪いんじゃない?」

「えっ・・・う、ううん。そんなことないよ。」

「顔色もまだあまり良くないし、疲れが溜まってるんだよ。無理しなくていいよ。送るから先に帰ろう。」

「う、うん・・・」

大野さんがまだ合格の通知来てないっていうのに、俺がスカウトされたなんて知ったら、きっとショックだろうな・・・

一番先に相談したい人に話せないなんて、地獄だよ。

大野さんが皆に俺の体調が戻っていない事を説明してくれて、なんとか2人で祝賀会を途中で抜け出した。

「ゴメンね。せっかくの祝賀会だったのに・・・」

「ううん。こっちこそ、無理させちゃってゴメンな。」

「無理だなんて・・・体力が無い俺がいけないんだよ。」

「だけどさ、カズはホントに役者に向いてるよ。俺が辞めても十分演劇部を引っ張っていけるよ。今日コンクールで優勝出来たのだって、カズの演技が素晴らしかったからだよ。天性って有るんだなぁ。」

「て、天性?オーバーだよ。大野さんったら・・・」

「続けるだろ?演劇。」

「う、うん・・・」

「カズも将来一緒に演劇出来るといいな・・・」

「あ、あのさ・・・大野さん。」

「ん?何?」

「あ、ううん・・・大野さん、オーディションの結果次第では直ぐに学校辞めちゃうんだよね?」

「あ・・・うん。役者やるのに学歴とかどうでもいいからね。」

「そ、そうなんだ・・・」

「何で?」

「い、いやっ、今みたいに送って貰えなくなるのも寂しいかなって。」

「んふふっ。まだ合格できるかも分かんないよ。」

「絶対合格するよ!そうじゃなきゃ困る!」

「えっ?」

「あ・・・うん、その、そうじゃなきゃ俺が大野さんとずっと一緒に居られなくなるって意味でだよ。」

「ふふ・・・もし不合格でも、俺は東京に何とかして残るよ。」

「ほ、本当?」

「うん。まだ具体的な事は考えてないけど、俺もカズと離れ離れになるのは嫌だから。」

大野さんはそう言って俺の手を握るから、胸がキュンとなった。

大野さんに送って貰うのは恐らくこれが最後だろうし、もう一緒に芝居の稽古も出来ないんだって思ったら、めちゃめちゃ切なくなった。

やっぱり俺は大野さんが好きだから演劇部に入ったわけだし、役者になりたいなんて微塵も考えた事はなかったけど、もしも大野さんとずっと一緒にお芝居が出来たら・・・

俺はポケットの中に片手を突っ込み、あの名刺がそこにある事を確認すると、繋いだ左手にギュッと力を込めた。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

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蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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