第11章
初めての危機③
俺は結局一睡もせずにアトリエで絵を描いてた。
何もしないでいるよりはこうしていた方が心が静まるんだ。
夢中で描いていたらいつの間にか辺りが明るくなって
カーテンを開けて外を見てみると
雪が真っ白に積もってた。
これって、ニノ帰れるのか?
リビングに降りてテレビのリモコンのスイッチを入れる。
何処の局も大雪関連の情報を流してる。
どうやら今日は全国的に大雪らしい。
交通機関も麻痺してるみたいで
JRや飛行機の運休や見合わせの情報が流れてた。
俺は予定では朝から仕事が入ってる。
迎えの時間までまだたっぷり有るんだけど
マネージャー、この様子だと時間通りには
無理だろう・・・。
暫く経ってマネージャーから電話が入った。
今日は午前中から新曲のレコーディングだったんだけど
交通規制が掛かってて、遠回りするルートで
迎えに行くから予定より遅くなる、との連絡だった。
俺は朝飯を軽く食べて
ちょっとだけソファーの上に横になった。
うとうとと眠りかけてたらまたスマホに着信。
あ・・・ニノからだ。
和 『おはよう。起きてた?』
智 『ん?ああ・・・』
和 『寝てたでしょ(笑)』
智 『お前、一人で寝た?』
和 『当たり前じゃないの。何馬鹿なこと言ってるの(笑)』
智 『おいら眠れなかった・・・』
和 『ええっ?俺が居なかったから?』
智 『そう』
和 『もう、子供じゃないんだから(笑)
仕事中眠くなったらどうするの?』
智 『いいよ。どうせいつも眠たそうに言われるし。』
和 『いやぁ、それはマズイでしょ。』
智 『おいってば。』
和 『はい?』
智 『今夜も帰れないとかないよな?』
和 『うーん、まだ何とも言えない・・・』
智 『新幹線も見合わせしてるみたいだな。』
和 『困るよね。仕事も有るのに・・・』
智 『仕事かよ?』
和 『あっ・・・(笑)』
智 『俺に逢いたいとかじゃねえのかよ?』
和 『ははっ・・・ごめん、そっちが重要だよね。』
智 『なんだよ。こっちは眠れなかったってのに。』
和 『ちゃんと帰ったらさ、一杯いい事してやるよっ』
小声でニノがそんな事言うもんだから
勝手に下半身が疼いてしまった。
智 『絶対今夜帰って来いよ。』
和 『あはははっ・・俺はそのつもりですけどね。』
智 『そっち出るときLINEしろ。』
和 『うん、あ・・・Jが来たから切るねっ』
智 『ええっ?』
和 『また連絡するから・・・』
これじゃ、なんだか
どっちが本命なのかわかんねえじゃん。
見方によっては俺の方が浮気相手みたいだ。
何でコソコソしなきゃなんないんだよ。
リビングの窓の外の庭が
一面雪に覆われてて今もまだ降り続いてる。
ちょっとこれじゃ、今夜もわかんねえぞ・・・
クソッ。
マジで行かせるんじゃなかった。
2日もニノに逢えなかったら
俺はきっと干乾びて死ぬわ。
それから結局マネージャーが俺を迎えに来たのが
昼前だった。
めちゃくちゃ渋滞に巻き込まれたようで
疲労困憊しまくってた。
マ 『すみません。遅くなってしまって』
智 『いやいや、大変だよね。こんな日でも休めないんだから。』
マ 『大野さん、お昼何処かで済ませてから行きましょうか?』
智 『そうだな。どうせスタジオ入るの午後からだしな。』
マ 『何か食べたいもの有りますか?』
智 『ラーメンとかでいいや。』
マ 『分かりました。それじゃラーメンで・・・』
俺はマネージャーとスタジオの近くのラーメン屋に入って
昼食を食べた。
智 『ニノ、今夜帰れそう?』
マ 『はぁ、まだ様子みてるところだと思いますよ。』
智 『この様子だと厳しいだろうな。』
マ 『何十年振りの大寒波だそうですよ。』
智 『帰らないと仕事もさすがにマズイだろ?』
マ 『そうですね。これ以上の予定変更はスケジュール上厳しいかと・・・』
智 『新幹線で帰る予定なんだよね?』
マ 『そうなんですが、昨日帰れなかった乗客が
駅にごった返してるみたいで、多分大騒ぎになるの避けるために
車で迎えに行くんだと思うんですけど・・・』
智 『この雪じゃ無理だろ・・・』
マ 『はい。恐らくもう1泊して頂くんじゃないでしょうか?』
最悪じゃん・・・。
今夜もニノに逢えないと思うと
完全にテンション下がる俺。
またよりによって何でニノがロケに行くという時に限って
こんな天気なんだよ?
俺は雨男だけどニノは雪男だな。
俺は食事を済ませてレコーディングに入った。
その間も、雪は降りやまず
俺は予定の2曲を仕上げる事無く
帰りの交通規制を警戒して、
その日のレコーディングも早めに切り上げて家に戻った。
つづく