第16章
恋人の家出③
ニノは俺が大きい声を張り上げたので
凄くビックリした顔してる。
そりゃそうだよ。
俺も自分で驚いたくらいだもん。
俺、今までこんな大きな声
恐らくどんな場面でも出した事無いよ。
物静かっていうのが
トレードマークみたいな人間なんだもん。
そんな俺がそこまで大きな声出したのは
やっぱり、ニノの口から
「別れる」っていうワードを絶対に聞きたくなかったから。
俺、こんなにお前の事好きなのに
どうして分かってくれないんだよ。
俺はギュッと自分の拳を握り締めた。
和 『大きな声出したからって、俺はあなたの事許さないから。』
智 『ニノ・・・それじゃ、お前はどうしたいの?
おいら、どうしたら許してもらえるの?』
和 『もう暫く考えさせて・・・』
智 『考えるって何を?』
和 『時間をくれって言ってるの。』
智 『そうか・・・。』
もう、これ以上何を言っても無駄なんだな。
俺はもうこの時諦めようと思った。
自分が捲いた種だし・・・
揉め事は正直疲れるし、もう嫌だ。
自分の性には合わないよ。
嫌だと言ってるのに
無理に連れ戻したところで
俺達がうまくやれるのかと考えてみても
それはきっとこの状況だと
また喧嘩になり兼ねないものな。
時間が良い方向に解決してくれるのかは
それは俺にも分からないけど
とにかく、ニノには時間が必要だって事だけは
ハッキリ分かったんだから
ここは大人しく待つしかないんだ。
だけど・・・
智 『だけど、これだけは覚えといて・・・
あの家は俺達の・・・お前の家だよ。
お前が帰るところはあの家なんだ。
俺はニノの事は本当に愛してる。
別れる気なんかこれっぽっちも無いから。
時間が必要なら、どんだけでも待つよ。
好きなだけ考えてくれてもいいから。』
和 『う、うん・・・』
ニノはもっと俺に何か言いたそうな
そんな表情を見せたけど、
それを堪えるかのように
唇をギュッと噛み締めて楽屋を出て行った。
俺達・・・ちゃんとまた元に戻れるよね?
俺は、お前の事信じてるよ。
必ず戻ってきてくれるって。
結局、それから
ニノとは連絡が取れないまま
また1週間が過ぎた。
広いダブルのベッドに1人で眠ることにも
もう若干慣れてきた。
時々ニノの温もりが恋しくなって
寝付けない事も有ったけど
そんな時は強めの酒を飲んで
眠るようにした。
ただ・・・いつも俺は
ニノが突然想い直して
家にフッと戻って来るような気がしてた。
俺も寂しいけど
アイツはもっと俺なんかより寂しがり屋なんだ。
そんなに強くないの、俺は知ってるもの。
明日はまたレギュラー番組の収録だから
顔は合わす事が出来る。
もう俺から話し掛ける事は無いけど
ニノの笑ってる顔見れるなら
俺はそれでイイってそう思った。
ニノは1人になって
本当は何かやりたい事が有ったのかもしれないな。
だとしたら、あの時俺がそう感じたのも
やっぱり間違いでは無かったのかも。
それがゲームだとか思ったのは
俺がいけなかったんだけど
仮にゲームだったにせよ
今は存分にそのやりたい事が出来てるわけだろうし
気が済むまでそれをやったら
そしたら・・・必ずここに戻って来てくれるよね?
そんな事考えていたら携帯に電話が入った。
あっ・・・ニノ?
智 『もしもし、ニノ?』
和 『明日、収録が終わったら話が有るから・・・
あなたととりあえずそこに戻るから。』
智 『ほ、本当に?うん、分かった。』
和 『それじゃ、明日・・・』
短い電話だったけど
ニノはもう、怒ってる感じじゃなかった。
明日、帰って来てくれるんだ。
良かった・・・。
もう、間違っても彼の事
怒らせたりしないようにしなきゃ。
その夜、ちょっと嬉しくて
俺はなんか変に緊張しちゃって眠れなくなった。
つづく