第16章
恋人の家出④
次の日、収録でテレビ局へ向かうと
ニノが自分の車で駐車場に入るのが見えた。
これまでマイカー通勤は
事務所から禁じられてるから
マネージャーが実家まで送迎してたと聞いてる。
自分の車でここに来たって事は
本当に戻って来てくれる気になったんだ。
俺はそれを見てホッとした。
楽屋に入って
ニノと顔を合わせるも
どことなくまだぎこちなくて
普通に会話がどうしても出来なかった。
メンバーやスタッフが居る前では
勿論、色々話せる訳もないから
全ては仕事が終わってからって事になる。
もう後は仲直り出来るかどうか。
それだけなんだ。
収録の間も
ニノは俺の顔を時々様子伺うように
チラチラ見てるのが分かる。
俺はなるべくそれを意識しないように
普通に振舞って
ようやくその日の仕事を終わらせた。
俺は先にマネージャーと家に戻り
ニノの帰りを待った。
30分位経って、ニノの車が到着した。
リビングの扉が開いて
入り口を振り返ったら
ニノは出て行った時と同じ鞄を抱えて
扉の前に立ってた。
俺は何事もなかったように
「おかえり」と言った。
和 『ただいま・・・』
それから2階に上がって
荷物を置いて、またニノがリビングに戻って来る。
そして、俺が座ってるソファーの真横に腰掛けた。
そこはニノの指定席みたいなものだから。
和 『あの・・・言っとくけど俺は許した訳じゃないからね。』
智 『うん。分かってるよ。』
和 『それっ、それが嫌いなの!』
智 『えっ?』
和 『自分だけ何でも分かってる振りして、
本当はなんもわかっちゃいないくせに!』
智 『そ、それじゃなんて言えばいいの?』
和 『あなたさ、俺が1人になりたいから・・・1人でしたいこと
有るから休暇を合わせたくないって思ったんでしょ?』
智 『それは・・・』
和 『だからあんな事言ったんだよね?』
智 『うん・・・』
和 『それは珍しくあなたの読みが当たってましたけど。』
智 『えっ?やっぱそうなの?』
和 『でもね、あなたが馬鹿なのはそこから先なんだよ。』
智 『ええ?』
和 『俺、自分の事の為にあなたとの時間削るような事
考えたりすると思う?そこが馬鹿だって言ってるの。』
智 『でも1人になりたかったのは、なりたかったんだろ?』
和 『本当はこれね、あなたには内緒で進めるつもりだったの。
驚かせようって思ってたから。それにはどうしても
少なくとも2日は不在で居て貰いたかったんだ。』
俺に何かサプライズ的な計画を立ててたって事か。
智 『驚かせる?』
和 『もう、いいですよ。俺もね、実際離れてゆっくり考えて
あなたに小細工的な事を仕掛けようとした俺も俺だって
反省したんです。あの時、きっと悪い方に疑われてるって
途中で気が付いて、その俺の考えてる事を話そうかって
思ってた矢先に俺が出遅れたから、あなたから
ただのセフレ呼ばわりされちゃうし。
もう、あの時はマジで俺達終わったと思った・・・』
智 『あれは、死ぬほど反省したよ。ゴメン。』
和 『だいたいね、言っていい事と悪い事くらい分かれよな!』
智 『ごめん・・・』
和 『この家ってさ、殺風景でしょ。だから俺、庭をちょっと
お洒落に改造したくて、あなたの為にハンモックとか
テーブルや椅子とか置いて、居ない間に業者を呼んでさ
完成したのを見せて驚かせようって思ってたんだ。』
智 『そ、そうだったの?』
和 『くだらない事考えなければ良かったって・・・』
智 『俺を喜ばせようと思って考えてくれてたんだ?』
和 『そうだけど・・・最初からサプライズとかにせずに
ちゃんと話しておけば良かったんだよ・・・』
智 『やっぱ・・・俺、お前の事好きだとか言いながら
何も分かっちゃいないんだな・・・』
和 『そうだよっ。いつまでも周りに迷惑掛けられないから
とりあえず戻っては来たけどさ。
べつに許したわけじゃ有りませんから。』
なんか俺・・・今のニノの話を聞いて
めっちゃ落ち込んだ。
和 『でも・・・離れてみて気付いた事はある・・・』
ニノが俺の顔を上目遣いに覗き込み
和 『俺、やっぱりあなたと離れてなんて暮らせない。
あなたは、どうしようもないおバカさんだけどさ、
そんなあなたを好きになった俺はもっと・・・
大バカなんだって事に気付いたから。』
そう言って俺の肩にゆっくりと凭れ掛かった。
智 『ニノ・・・』
和 『悔しいけど、俺はあなたの事が嫌いになれない。
ここに帰らなかった間、あなたの事を考えなかった日なんて
正直一日も無かった・・・』
ニノの声が泣きそうに震えた。
智 『ごめん・・・ごめんよ。ニノ、あんな酷い事言って・・・』
俺はニノを思いっきりそう言って抱き締めた。
つづく