第20章
恋人のストレス③
ニノのストレスの原因はやはり俺のドラマだった。
どんなに忙しくても
なるべく寝る時間は一緒に居てあげれるように
俺は俺なりに頑張っていたんだ。
そうこうしてるうちに
クランクアップが近付いて来た。
いよいよ問題のラブシーンの撮影が迫ってた。
そして、それはその前日の出来事だった。
俺はもう開き直っていたから
緊張とかも正直なかったし
むしろ、早く終わらせたい・・・
それしか頭にはなかったけど
周りが、初めてのキスシーンという事で
変に気を使ってリラックスさせる為とか言って
スタッフと、共演者数名で帰りに飯を食べに行くぞって、
急遽そういう話になった。
早く帰りたい俺にしてみたら
本当、余計なお世話なんだけど。
そこには相手役の女優も居たんだけど
どちらかといえば、俺なんかより
その子の方が緊張してる感じだったから
その子だけを誘ってくれれば良かったのに
何で俺まで・・・。
とりあえず、今夜は遅くなるから
先に寝ておいてくれと
ニノには電話を入れたけど
さすがに皆と飯を食いに行く、とは言えず
撮影が長引いてるって嘘を付いてしまった。
まあ、ドラマやってると良くあることだし
ニノもドラマの経験は俺なんかより多いから
そこは全然疑わなかった。
ところが、こんな嘘をつけば
いつも最悪の事態が起きてしまうんだけど
この日だけは、もう言い逃れが出来ない程の
事件が起きてしまう。
ドラマ関係者、出演者の10人位で
テレビ局の傍の鍋料理屋に行って
座敷に座り鍋を突いてた。
スタッフの1人が、相手役の〇さんに
俺に打ち解けた方がいいからって
隣に座るように持ち掛けた。
俺はドラマの間、その子と仕事以外の話は
殆どしていなかったから
毎日顔は合わせていたものの
お友達みたいな仲良しの雰囲気というのが
周りから見ても全然感じられなかったのだとは思うけど
もう、明日は最後の撮影で
しかもファンの人も視聴者も大注目してる
ラブシーンの撮影だから
せめてもう少し二人の距離を縮めて
ちょっとでも自然な雰囲気を出させたかったんだろう。
とはいえ、隣に座られたところで
俺も女の子に気の利いたこと言える人間じゃないから
黙って鍋をひたすら食ってたら、その〇さん・・・
殆ど鍋に箸を付けずにひたすら酒ばかり飲んでるから
智 「さっきからずっと飲んでるけど、少しは食べたら?」
〇 「・・・」
智 「お酒、強いよね・・・」
〇 「そうかな?そうでもないです・・・」
こりゃ、相当酔ってる?ヤバイな・・・。
ちょっと頬がピンク色に染まって目が据わっちゃってた。
〇 「あのっ・・・ちょっと大野さん、いいですか?」
智 「えっ?なに?」
〇 「わたし・・・ラブシーンとか経験が無くて。」
智 「えっ、あ、おいらも男としかないよ(笑)」
〇 「それじゃ、一度ここでリハーサルしませんか?」
智 「はぁ?」
リ、リハーサルって、この子何言ってんだ?
〇 「練習させてって言ってるんですっ!」
智 「えええっ?」
ヤバイぞってそう思ったら
その子のマネージャーがそれを察して
その子を止めようと走ってきたんだけど
それよりも先に・・・
俺はその子にいきなり唇を奪われてしまった。
しかもスタッフ達皆が居る目の前で。
そして勢いでおれは後ろに押し倒された。
スタッフらのどよめきと
マネージャーの叫び声が同時に聞こえた。
〇マ「大野さん、すみません。この子酒癖が悪くって・・・」
俺の胸の上でクタクタに寄って
抱き付いてる状態のその子を
無理矢理マネージャーが引き離して
俺にひたすら頭を下げた。
俺は暫く放心状態だったけど
それを一部始終見ていた俺のマネージャーが
真っ青な顔をして俺に駆け寄り
マ 「大野さん、とにかくもうここは帰りましょう・・・」
と俺の腕を掴んでその場を脱出した。
俺達の後を心配して追い掛けてきたディレクターが
俺に深々と頭を下げて謝った。
デ 「いやあ・・・なんかすみません。
〇ちゃんが、あんなに酒弱いの知らなくて
周りがどんどん薦めちゃってたもんで。
多分、本人は覚えてないと思うんで
明日は普段通りになんとかお願いします。」
マ 「公私混同は困りますね。あの女優にキチンと
あなたからも言って聞かせて下さいよ。」
デ 「分かってます。勿論厳しく対処しますよ。」
智 「あ・・・大丈夫。おいら別に気にしてないから。」
そう言って車に乗り込んだものの
さすがに俺は動揺してた。
だっていきなりチューとかビックリするだろ・・・普通。
マ 「大丈夫でしたか?ビックリされたでしょ・・・」
智 「う、うん・・・(笑)」
マ 「あちらのマネージャーも言ってましたけど、
本人は相当酔ってましたから、恐らく何も覚えてませんよ。」
智 「覚えてたら気まずいわ・・・」
マ 「色んな方がいらっしゃるものですね(笑)」
智 「まっ、女優さんってストレス溜まるんだろうな。」
マ 「どうでしょうね(苦笑)」
智 「どうせ、また打ち上げあるんだから、
今夜わざわざあんな事しなくても良かったんだよ。」
そんな話しながら
俺は自宅に帰り着いた。
つづく