第20章
恋人のストレス④
そんなアクシデントが有った食事会だったけど
お陰で予定より早く引き上げることが出来た。
先に寝てろって電話したけど
おそらくまだニノは起きてるだろう。
玄関の鍵を開け、靴を脱いでリビングに入ったら
ニノが背中を丸くしてゲームに集中してた。
俺の気配に気が付いて
コントローラーでそのゲームの画面を一時停止すると
俺の方を振り返って嬉しそうに可愛く
和 「お帰りっ・・・早かったね・・・」
って立ち上がり、俺の方に歩いてくる。
智 「ただいま・・・思ったより早く終われたんだ。」
っていかにも撮影を今までやってたような口調で
そう言うと、至近距離で俺の顔を見て
ニノの表情がたちまち強張った。
俺は、それが何なのか分からずに
ニノの身体を引き寄せて抱き締めようとしたら
全力で拒否された。
智 「ん?・・・どうした?」
和 「ねえ・・・今日、クランクアップだった?」
智 「いや・・・それは明日だけど・・・」
和 「・・・ですよね?」
智 「え?・・・何?」
和 「唇んとこに・・・ピンク色のグロスが付いてますよ。」
智 「ええ?」
や・・・やばい・・・。
咄嗟の事だったから、ちゃんと拭うの忘れてたんだ。
これはまマズい。どうしよう・・・
智 「あっ・・・これはその・・・リハでさ・・・」
和 「へえ・・・リハーサルでガチの、やるんですか?」
智 「お、俺はしないつもりだったんだけど。」
和 「相手の女優がしてきたの?」
智 「そっ・・・そうだよ」
和 「それで?あなた押し倒されるとか?」
智 「え?そこまでは無いよ・・・」
和 「それじゃ、この胸の所に付いてるグロスの後は何?」
智 「うわっ・・・マジか・・・」
和 「はあ・・・もうガッカリだよ。あなたには・・・」
智 「えっ・・・待ってニノ・・・話を聞いてよ。」
和 「悪いけど、言い訳なんて聞きたくありません。」
智 「ニノ・・・」
ニノは俺から離れると
またゲームに戻り、何事も無かったように
またゲームを再開した・・・。
そして、当然なんだけど
それから全く俺と会話してくれなくて
それから深夜までずっとゲームをし続けて
どのタイミングで寝室に来たのかもわからない。
そして翌朝、目が覚めると
俺よりも先にニノは起きていて
もう、ベッドの横にはその温もりすら残っていなかった。
智 「おはよう・・・」
って声を掛けるんだけどそれもシカトされた。
マズイな。
やっぱりすげー怒ってる。
俺の嘘なんて完全に見抜かれちゃうんだよな。
こういう場合は
俺はもうひたすら謝るしかなくて
智 「ゴメンな。ニノに余計な心配させたくなかったから
本当の事言えなかったんだ。あのさ・・・夕べね・・・」
和 「そういうの・・・イチイチ俺に説明要りませんから!」
智 「何だよ、人が謝ってるのに・・・」
和 「誰も謝って欲しいなんて、俺一言も言ってませんよ。」
智 「何だよ。だったらなんでそんな怒ってるのさ?」
和 「怒ってなんかいませんよ。ただね・・・」
智 「ただ?何だよ?」
和 「あなたにはガッカリだって・・・そう思っただけです。」
智 「もういいよ。分かってもらえないのなら、
好きなだけ怒ってたらいいよ・・・」
和 「ふうん・・・開き直るんですか。
ま、それならそれで俺はいいですけど・・・」
朝から喧嘩かよ・・・。
だって言い訳も聞いて貰えないんじゃ
もうどうする事も出来無いじゃん。
だったら開き直るしかないだろ。
だけど、ニノの精神状態は
普段とは大きく違ってた事を俺はスッカリ忘れてた。
智 「今日、撮影終了後は打ち上げだから。
今夜はマジで遅くなるから・・・」
和 「へえ・・・」
智 「今日でホント終わりだから機嫌直してよ。」
和 「そんなこと・・・言わないでも知ってるよ。」
智 「いいか、言っておくけど夕べのは事故だからな。
なんなら俺のマネージャーが全部知ってるから
聞いてくれていいから・・・」
和 「そんな必死になるから、余計疑われるんじゃん。」
智 「ごめん、もう俺行かないと。」
和 「ラブシーンなんでしょ?まあ期待を裏切らないように
せいぜい頑張って下さい・・・」
智 「な、なんだよ、その言い方は・・・」
めちゃくちゃ険悪なムード。
本当は俺だってもっとゆっくり
誤解を招くようなことをして悪かったって
謝りたかったんだよ。
だけど、表にマネージャー待たせてたし、
実際、俺は何も悪くないから
色々腑に落ちないことだらけだ。
ニノの俯いた横顔・・・
悲痛な面持ちが、今日1日俺の頭の中から離れなかった。
つづく