第25章
恋人を信じたい⑤
(side nino)
俺は山田に手渡されたメモを見て
思わず言葉を失った・・・。
というのも、そこには山田の交際相手をカモフラする計画
というのが書かれてて、その相手役に俺の名前が・・・
俺は山田の顔を覗き込んだ。
山 「先日事務所に呼ばれて、それを渡されたんです。」
和 「それじゃ、これはお前が考えたんじゃないの?」
山 「それは全部上からの指示なんです。」
和 「でも、どうして俺なの?」
山 「それが・・・」
和 「何か知ってるの?いいからちゃんと答えてよ。」
山 「ニ宮先輩は・・・これまで事務所が片付けてきた
女性問題が沢山あるから、事務所には今後
しっかり恩を返して貰うと・・・」
和 「なるほどね・・・そういうことか・・・」
山 「本当はニ宮先輩には直接上から話す
と言われたんですが、これは俺の問題でもあるわけだし
協力してもらうのなら俺から直接きちんと
お詫びしてお願いするのが筋かと思って・・・」
和 「ふうん、ようはさ・・・
お前が俺となんか関係が有るんじゃないか?
の方が、ファンからしても女性の関係を噂されるよりも
マシだと上は考えたわけだ・・・」
山田は事務所にとっても将来の有る大事な人材だからな。
こんな中途半端で女性問題スクープされたんじゃ
折角の大切な持ち球を捻り潰され兼ねない。
たまたま俺は山田と映画とかで
ここんとこ一緒に仕事することも多かった。
その上、俺はリーダーと結婚してるから
多少のペナルティ科せられたってわけか。
これは、もう完全にいい様に事務所に
俺達利用されてる。
だけど、俺の過去の女性問題の事まで持ち出されたら
確かに否定は出来ないし・・・
これは困ったことになったな。
勿論、全てお芝居でいいんだろうけど
このタイミングっていうのが相当マズイ。
何故ならリーダーが今は凄いナーバスになってるから。
ただでさえ、山田の事では不安になってるっていうのに。
山 「先輩・・・こんな事になって、本当にごめんなさい。」
和 「過ぎちゃった事を責めても何も解決にはならないよね。
このメモによると、俺は涼介と頻繁にプライベートで会って
しかも、いかにもそういう関係を持ってると
世間が騒ぐレベルの事しなきゃなんない・・・
みたいになってるね・・・。
よくこんなシナリオ作るよな。感心するわ。」
山 「ええ・・・。どうしてそこまでしないといけないのか・・・」
和 「それは簡単でしょ。お前の10年後は
俺らの今よりも何倍も期待されてるからだよ。」
山 「そんな。だからって・・・」
和 「いいじゃん、どうせお芝居するだけでしょ・・・」
山 「先輩には恋人居ないんですか?もし俺との噂が
スクープとかされたら、困ったりしないんですか?」
和 「困るよ。だけど俺はこのプロジェクトに自動的に
組み込まれてるわけだし、嫌だと言っても断れないよね。
だったらやるしかないでしょう・・・」
山 「先輩・・・」
和 「あー、なんだ、そうかぁ・・・そういうことだったの。」
山 「なんか・・・本当にすみません。」
和 「仕方ないよ。これも仕事のうちだから・・・」
山 「この恩は絶対に忘れませんっ・・・」
和 「ね・・・話はそれだけだよね?
俺さ、人を待たせてるの。そろそろ帰っていいかな?」
山 「恋人・・・ですか?」
和 「さあ・・・どうかな(笑)あ、これ旨かったよ。
ご馳走様でした。また動かなきゃなんない時は
連絡してよ・・・。」
山 「俺・・・相手役が先輩で良かったです」
和 「ええ?喜んでいいのかなぁ(笑)」
山 「先輩は俺達後輩の憧れだし、目標ですから・・・」
和 「フフッ・・そういうことね。」
山 「すみません、また近いうちに連絡します・・・」
和 「ああ・・・分かった。それじゃ俺帰るね・・・」
山 「送りましょうか?」
和 「ううん、大丈夫。タクシー拾うから、またね。」
俺は山田の家を出てタクシーを拾った。
参ったな。ああは言ったものの気が重い。
俺にはリーダーが居るのに。
まさかこんな事に巻き込まれることになるなんて。
リーダーに何て言おう・・・。
嘘を付いたら、多分どんどん話が拗れちゃうだろうしな。
だけど今のリーダーが
果たして何処までこの話を冷静に聞いてくれるか?
だよな・・・。
俺はタクシーの後部座席で一人小さく溜息をついて
外の景色を眺めながら、これから始まる
大きな芝居のシナリオさえ想像出来ずに
重くのしかかった重圧に、ただ頭を抱えた。
つづく