第25章
恋人を信じたい⑧
(side nino)
そして数日後・・・
俺は山田から突然連絡を受けて
都内のバーに向かった。
山 「あ、先輩、急に呼び出してすみません。」
和 「どうした?いよいよ偽造工作開始するの?」
山 「ええ。上からの指示が・・・。
それでこの前お話してた俺を完全マークしてる
雑誌の記者がここも張り込んでて
恐らく俺達が今こうして逢ってるところも・・・
もう既にチェックされてると思います。」
和 「そうか・・・」
山 「本当にごめんなさい・・・」
山田は今にも泣きそうな顔。
そんな顔するくらいなら
最初から女なんて作らなきゃいいんだ。
なーんてね。
そういう俺も若い頃は何も考えずに遊んでたから
自覚が足んないってよく事務所から叱られてた。
いくらアイドルだって人間だもの。
恋愛くらい自由にしたいよな。
だけど俺達はあまりにも
有名になり過ぎちゃって
恋愛どころか、普通の生活すらままならない。
だけどそれは自分達が好んで選んだ道。
嫌なら辞めるしかないけど
今はそれすら選択肢はないんだから地獄だよ。
俺は好きな人と同棲出来てるからまだマシかな。
和 「それじゃ、行こうか・・・?」
山 「はっ?もう帰るんですか?」
和 「違うよ・・・こういうの、長期戦に持ち込むのって
俺は苦手なのよ。お酒を同じ事務所の先輩後輩で
飲みに来たところで、だから何?って感じでしょ。
決定的な写真でも撮らせないと延々終わらないよ。」
山 「えっ?」
和 「分かんないかな?二人でこの近くのホテルに入るの」
山 「ええっ?ほ、本気で言ってるんですか?」
和 「あ、勿論芝居に決まってるだろ(笑)
今夜は俺と泊まるんだよ。それから早朝二人で
ホテルを出てく所をカメラマンにわざと撮らせる。」
山 「だけど・・・」
和 「そこまでする必要ない?だったら俺は帰るけど。」
山 「ま、待って下さい。分かりました。やります!」
和 「涼介?心配しなくても俺はちゃんと恋人いるから
お前の事襲ったりもしないよ(笑)」
山 「え?は、はぁ・・・」
和 「お互いの自宅だと、関係を疑われないだろ?
どうせニ宮と朝までゲームしてたんだろう・・・
それくらいにしか思われないから。」
山 「確かに、そうですよね(笑)」
和 「ちょっと遠いけど横浜辺りまで行こうか?」
山 「横浜・・・ですか?」
和 「うちのリーダーがこの前までドラマのロケしてたの。
ほら、一流ホテルの社長って設定の・・・」
山 「ああ~そういえばやってましたね。」
和 「そうと決まればさっさと行こうか・・・」
俺は山田と二人でタクシーを拾い
記者が跡を着けて来るのをしっかりと
確認しながら横浜へと向かった。
高級ホテルのスイートルームが空いてるか
スマホで確認して予約を入れて
俺達はそのホテルに向かう。
俺は地味な格好だから目立たないけど
山田の場合は普通にしてても王子様だから
キラキラしてて何処からでも目立ってしまう。
とりあえず、タクシーを先に降りて
フロントでチェックインを俺が済ませて
山田は遅れてホテルに入った。
俺はルームキーを渡されて
最上階の部屋に向かった。
港の夜景が一望できて
なんとも雰囲気のいい部屋。
あ~あ、出来る事ならあの人と来たいよなぁ。
俺は小さく溜息をついた。
遅れて山田も部屋に入る。
和 「記者達もきっちり着いて来てたね(笑)」
山 「多分今頃、頭捻ってますよね(笑)」
和 「ごめん、ちょっと電話してくる・・・」
そうだ。
俺は大事な人にこの事を話さなくちゃならない。
あくまでもお芝居・・・。
偽造工作なんだって伝えなきゃ。
時間は夜の9時を廻ってる。
和 「あ、もしもし?リーダー?俺だけど・・・」
智 「どうした?今日は早いんじゃなかったの?」
和 「あのさ・・・リーダー、落ち着いて俺の話聞いてくれる?」
智 「え?どうかしたの?」
和 「偽造工作、今日いよいよ始動したんだ。」
智 「えええっ?」
和 「それでさ、今横浜のホテルに涼介と来てるんだけど。
今夜はここに泊まるから、そっちには帰れないの。
明日の朝には戻るけど、俺はそのまま仕事に向かうから。」
智 「ホッ、ホテル?ちょっと・・・何だよそれ?」
和 「ほら、あなたがドラマで撮影してた場所だよ。」
智 「いや、それは分かるけど・・・なんでホテル?」
和 「リーダー、この前も言いましたけど、
これは全てお芝居だから、何も心配しないでいいよ。」
智 「で、でも・・・」
和 「俺が愛してるのは、サトシだけですよ。俺のこと信じて。」
智 「えっ?・・・う、うん・・・」
和 「ちょっと、情けない声出さないでよ。
電話切れなくなっちゃうじゃん。」
智 「絶対・・・絶対、何もないよね?」
和 「うん。当たり前ですよ。」
智 「よし・・・わかった。俺、おまえのこと信じてるから。」
電話の声聞いただけでも
今夜、リーダーは眠れないだろうなって、
俺には分かる。
好きな人にこんな不安な想いをさせて
とにかく俺は、申し訳ない気持ちで一杯だった。
つづく