第25章
恋人を信じたい⑨
(side nino)
それから、リーダーとの電話を終わらせて部屋に戻ると、
山田はシャワーを浴びてバスローブ姿で
ミネラルウォーターを飲んでいた。
なんだ?それ・・・
山 「あ・・・先輩すみません。先にお風呂使わせて貰いました。」
和 「いいけど、何でそんな色っぽい格好してるんだよ(笑)」
山 「気にしないで下さい・・・」
気にするなと言っても気になるだろ・・・
なんか、芝居だって言ってるのにヤダな。
和 「それじゃ、俺もシャワー浴びて来ようかなぁ。」
山 「はい、ごゆっくり・・・」
和 「ああ・・涼介、事務所に一応今の状況をお前から
電話で説明しといてよ。後からじゃ面倒だからさ。」
山 「あっ、はい。分かりました。今から電話入れておきます。」
俺もとりあえずバスルームに行ってシャワーを浴びた。
事務所にはアイツから連絡させて、ひとまず
週刊誌とかネットとか騒ぎになるだろうから
その対応については、ある程度事務所側に
考えて貰えば事は意外と簡単に済むかもしれない。
ところが・・・
俺がシャワーを終えて部屋に戻ると
山田が深刻な顔で電話を見つめてた。
和 「どうしか・・・したの?」
山 「先輩・・・」
和 「事務所、話したんだろ?なんて?」
山 「アイデアとしては全然問題ないそうです。」
和 「そりゃそうだろな。」
山 「だけど・・・」
和 「ん?」
山 「そんなんじゃ、記者はまだ信じないって・・・」
和 「ええ?だってホテルのスイートだよ?十分じゃないの?」
山 「俺もそう言ったんですけど・・・」
和 「それじゃ、どうしろっていうの?
さすがにアイドルがラブホとか無理な話でしょ。」
山 「それがその・・・車の中で・・・俺と二宮さんが
キスしてるところをカメラマンに撮らせろって・・・」
和 「はあ?」
山 「む、無理ですよね。そこまでするなんて・・・」
和 「ふ、ふざけやがって・・・
誰だよ?そんな無茶苦茶なこと言うの。」
山 「副社長です・・・」
和 「マジで?」
山 「だから困ってるんです。話が違いますよね?
お芝居ってそういうことなんですかね?」
和 「さぁ・・・どうしよ?」
山 「無理ですよ。そんなこと。」
和 「嫌だ、で済まされることなの?」」
山 「だって、俺は構わないけど・・・
これ以上幾ら何でも先輩に迷惑掛けられません。」
俺はこの話をしている最中
ずっとあの人の顔がチラついてた。
俺を信じてると言ってくれてるのに
ここにきて、まさかそこまで
巧妙な偽造工作をさせられるなんて。
どうしたらいい?
さすがに俺もこれには逃げ出したくなった。
だって、映画でもドラマでも
なるべくそういうシーンは避けたいと思ってた事だし
同性同士でキスなんて・・・
リーダーとしか考えられないもの。
それより、その画像が世間に流れたとして
あの人がそれを見て・・・
果たして冷静でいられるの?
絶対そんなの無理に決まってる。
ただでさえ、俺を奪われちゃうんじゃないかって
不安に押し潰されそうなあの人に
これ以上追い討ちを被せちゃって大丈夫なのか?
和 「ゴメン。それはやっぱり少し考えさせて貰っていいかな?」
山 「いえ、断りましょうよ。もっと他に・・・
マスコミを信じさせる方法は有るかもしれませんし。」
和 「例えば・・・?」
山 「あ・・・いえ・・・直ぐには思い付かないですけど。」
和 「くそっ・・・何の為に外泊までしたんだよ。
これっきりで終わらせるつもりだったのに・・・」
山 「俺がいけないんです・・・。本当にゴメンなさい」
和 「もうさ、謝んないでいいよ。謝ったってどうにもなんない。
そうでしょ?」
山 「でも・・・」
和 「うん・・・芝居だよ。どこまでも芝居だと思えばいい。
俺達はBLものの映画の配役に抜擢されたんだ。
そう考えようよ・・・。
別に、ガチでヤレって言われたわけじゃないんだしさ。
キスなんか目を瞑って数秒我慢すれば終わりでしょ。
うん、相手を俺だと思わなければいい。
俺もそれならやれるよ・・・」
山 「そんな・・・」
和 「だけど、これで最後にしたいから、手は抜かない。
マジでするんなら、ちゃんとするよ、俺は・・・」
山 「本気ですか?」
和 「お前も良く覚えとくんだな。
今後、スキャンダルを起こした時は
こんな事では済まされないかも知んないよ。
俺も後輩のお前に偉そうに言えた立場じゃないけどさ
俺だって何時までもお前の為の偽造工作には
付き合いきれないよ。だから今度がマジで最後な。」
キスか・・・。
好きでも何でも無いヤツと、
そういうことしなきゃなんないのは
俺がタレントって仕事してるからだもんな。
べつに、映画だと思えばやれるよ。
だけど・・・
あの人がそれを納得してくれるかは別問題。
ホント・・・最悪だ。
つづく