第26章
偽装の先に待っているもの①
(side nino)
結局俺と山田はその翌朝に
事務所からの指令通り実行するということになり
二人で綿密に計画を立てた。
その夜は、俺がベッドで
山田はソファーで別々に寝た。
・・・とはいえ、まともには寝つけなかった。
俺とリーダーが同棲を始める前なら
全然平気だった事かも知れないけど
今の状況からすると
俺とリーダーは新婚と何も変らないわけで
ようやく二人で手に入れた最高の幸せを
自分の過去の制裁なんかで
台無しにはしたくなかった。
だけど・・・
もう、ここから逃げることが出来ない。
完全に開き直って乗り切るしか道は無い。
俺の事を応援してくれてるファンの子達は勿論、
山田のファンの子達にとっても
きっと俺は可愛い後輩に容易く手を出す
プレイボーイだって思われるだろうな。
まぁ、それはそれで構わない。
だけど、あの人の事だけは悲しませたり
傷付けたくない。
どうすればいい?
幾ら考えても答えが見付からないまま
夜は明けていった。
結局俺はその夜、一睡も出来ず
ボーっとした頭のまま
服を着替えてホテルをチェックアウトした。
タクシーを呼んで山田と乗り込んだ。
その後方から俺達の事を張り込んでいた記者の車が
跡を着けて来るのを確認しながら
和 「どのタイミングでする?」
山 「本当にいいんですか?」
和 「昨日も言ったけど、これはお芝居だから。
感情とか一切入れないで、カメラ回ってると思って
すればいいから・・・」
山 「わ、分かりました・・・」
和 「それじゃさ、一度お前の家で降りよう。
それから涼介の車に乗り換えて・・・
せめて人気の無い場所に行こうか。」
山 「そうですね・・・」
和 「ふあああ・・・今頃眠くなってきたわ・・・」
山 「なんか・・・ごめんなさい。」
和 「フフッ・・・だからその謝るの、もう止めてよ。」
タクシーが山田のマンションの前に到着する。
山田は俺に言われた通りに
直ぐに駐車場へ自分の車を取りに行った。
山 「お待たせしました。」
和 「うん・・・それじゃ、行こうか・・・」
山 「何処がいいかな・・・」
和 「もう、それはお前に任せるよ。」
早朝に出てきたから
まだまだ人影も疎らだ。
俺達は近くの公園の脇に車を停めて
あの記者の車が着けてることを確認して
和 「さっさと撮らせよう・・・涼介、お前からしろよ。」
山 「わ・・・分かりました」
山田は運転席のシートベルトを外し
俺の身体に覆い被さるように顔を近付けた。
ち・・・近いっ・・・って当たり前だよな。
もう・・・こうなりゃやけくそだよ。
俺はその瞬間覚悟を決めて目を瞑った。
そして、次の瞬間・・・
山田の唇が・・・俺に・・・重なった。
ところがだ、何を勘違いしたのか
山田が突然俺の口内に舌を入れてきた。
えっ?えっ?なんで??
そ、そこまで必要か?
しかも、長すぎる・・・
俺はハッと我に返り
山田の身体を両手で押し退けた。
和 「も・・・もう十分だろ・・・」
山 「あ・・・はい///」
どういうわけか?山田が俺の顔を直視出来ずに
耳まで真っ赤になっていた。
なんなん?これ・・・
和 「ゴメン・・・俺まだ仕事まで時間有るから
送って貰っていいかな・・・」
山 「わ、分かりました・・・」
俺は自宅を教えるわけにはいかなかったから
以前住んでいたマンションまで山田に送らせて
車を降りた。
和 「もう、さすがに写真は撮れたから追っては来ないな。
それじゃ、多分これ以上の事は言われないだろうけど
何か有ったら連絡して・・・。」
山 「先輩・・・」
和 「ん?何?」
山 「あの・・・いえ、何でもないです。
本当に色々と有難うございました。」
和 「うん。お前もこれから大変だろうけど、うまくやれよ。」
山 「はい、それじゃまた・・・」
山田が帰ったのを確認して
俺は近くで再びタクシーを拾い
自宅へと戻った。
リーダー、まだ寝てるかな。
それにしても
涼介のヤツ・・・
どうして芝居だって言ってるのに
あんな本気みたいなキスを俺にするかな。
俺は手の甲で唇を拭って
ちょっとだけあの時のキスを思い出した。
頭を左右に振って
駄目駄目・・・
忘れようって
自分に言い聞かせる。
それより、リーダーにどう説明するかだ。
とりあえず仕事だし、その話は今夜だな。
タクシーに料金を支払って
車から降りた俺は、至って平静を振舞う為に
大きく深呼吸をして玄関の鍵を開けた。
つづく