第26章
偽装の先に待っているもの⑦
side nino)
俺と山田が特番での共演ともあって
スタジオ内はただならぬ空気が流れた。
スタッフ達が妙になんかそわそわしちゃって
気を使ってるのが分かる。
視聴率欲しさでこういう事態になってるんだから
当然の様に俺達は手の届く距離に座らされた。
カメラが回る前に俺は山田にひと言。
和 「収録中は変に俺に話し掛けるなよ」
山 「はい、分かってますよ。心配しないで下さい。」
それにしてもさっきからニコニコ笑ってて
随分俺とは正反対にご機嫌の様子・・・。
何かいいことでもあったのか?
お前がこのスキャンダルの発端だっていうのに
お気楽なもんだよな・・・。
やっぱり若いヤツの考えてることは
俺には理解出来ないや。
MCの芸人からカンペに沿って
色々俺達に質問が飛んでくる。
俺はとにかく普段通りを装って
山田とは目も合わせることなく
その収録を無事に終えた。
約3時間にも及ぶスタジオ撮影。
嵐の番組ならあっという間なんだけど
これはもう地獄だな。
もう、この後は仕事も入ってないから
さっさと家に帰ろう・・・。
俺は楽屋で衣装から普段着に着替えてた。
すると、ドアをノックする音がしたから
和 「はーい。どうぞ~。」
芸人さんかな?そう思って扉の方に目をやると
山 「先輩・・・ちょっといいですか?」
和 「涼介・・・なっ、何?」
山 「5分でいいから時間貰えませんか?」
和 「俺・・・もう帰るんだけど・・・」
山 「5分だけでいいんです。お願いしますよ。」
和 「う、うん。とにかく座りなよ。」
山 「有難うございます。」
和 「で?何?・・・もう、事務所からの指令は終わったよね?」
山 「ああ、もうその事ではないですよ。」
和 「だったら何?」
山 「ギター教えて貰いたいって言ってましたよね。」
和 「ええ?ああ・・・
でもあれは俺を誘う口実だったんでしょ?」
山 「いえ、俺本当に弾けるようになりたいんです。」
和 「それなら何も、俺じゃなくたって・・・」
山 「先輩が良いんです・・・」
和 「だけどさ・・・上から言われなかった?俺との接触はNGだって。」
山 「それは・・・言われました。けど・・・」
和 「無理だよ。ギター弾ける人は他にも沢山居るしさ。
城島くんとかにお願いしてみれば?」
山 「そうですか。そうですよね。分かりました・・・」
和 「うん・・・それじゃ、話は終わりね・・・」
山 「あ、あのっ・・・」
和 「え?まだ何か有るの?」
山 「もう、僕のことなんか・・・嫌気がさしてますよね?」
和 「ええっ?」
山 「先輩は好きな人居るって言ってたけど・・・
その人とはうまくいってるんですか?」
和 「え、うん。まあね・・・」
山 「それって嵐のメンバーの中の誰かですか?」
和 「な、何で?」
山 「いえ・・・なんとなくそうかなって・・・」
和 「全然関係ないよ。」
山 「そうですか・・・。あの、先輩・・・」
和 「・・・?」
山 「僕にも少しはチャンス有りますよね?」
和 「えっ?」
山 「僕、先輩の事が好きです。」
和 「はっ?あ・・・ああ、有難う・・・」
それって憧れって意味だよね?
山 「僕、先輩が振り向いてくれるまで頑張ります。」
和 「あ、あのさ・・・涼介?」
山 「もう一度お聞きしますけど、先輩が好きな人って
大野さんじゃないですよね?」
和 「ち・・・違うよ・・・」
山 「そうですか・・・良かったぁ。
それが聞きたかっただけです。
お疲れのところすみませんでした。それじゃ、
僕もそろそろ帰ります。お疲れ様でした。」
和 「お、お疲れ様・・・」
山田は一人で言いたい事言って控え室を出ていった。
何なんだ?
アイツ・・・何が言いたかったの?
ギターなんて、俺じゃなくても教わる人は
幾らでもいるのに・・・
しかも俺の事が好き?それって告白とか?
いやいや・・・まさか・・・
だけど、チャンスって何だろ?
はぁ・・・マジかよ?
これってリーダーが心配してた事じゃん。
俺とリーダーの関係は口が裂けても言えないし
かといって、この状況であやふやな返事や嘘は
本気でヤバイかも・・・。
だけどあまりに咄嗟過ぎて
俺は何も返す言葉が見当たらなくて
結局アイツに僅かながらでも
望みがあるみたいに思われた?
なんか、嫌な予感しかしないよ。
どうしよう。
最初は完全な偽装工作だった筈が
まさか・・・こんな衝撃的な
シナリオの続きが待っていたなんて。
俺は頭を抱えながら
迎えの車に乗り込んだ。
つづく