第28章
映画の仕事⑤
雑誌記者は散々遠回しに山ちゃんとのその後の関係を
探ろうとしてたけど、ニノはうまくそれを交わして
取材を終わらせた。
和 「ごめんね。なんか余計な気を使わせて」
智 「いや、いいよ。それよりあいつ腹立つな・・・」
和 「仕方が無いよ。マスコミはまだ涼介と俺との関係が
続いてると思ってるんだ。そのうえ主演映画が
BLものってわけだから、丁度探り易かったんでしょ。」
智 「うん、だけど腹立つ・・・」
和 「大丈夫だよ。俺はとっくに頭の中リセット出来てるし。
挑発に乗るだけ時間の無駄だよ・・・」
智 「俺がお前の事守ってやっから。」
和 「フフッ。ありがと。でも本当に平気ですから。」
ニノはいつもと変らない口調で俺に微笑んだ。
さすがにプロ意識が高いんだよな。
俺ときたらすぐに感情的になるからな。
俺の方が年は上だってのに
よっぽどニノは俺なんかより自分をシッカリ持ってる。
その後、明日の撮影の簡単な打ち合わせをして
その日は終了し、俺達は自宅へと帰った。
和 「明日も特にラブシーンはなさそうだね。」
智 「そうだな。シーンは序盤そう過激なのないもんな。」
和 「だけど台本では7割くらいがラブシーンだから(笑)」
智 「なんてことねえよ。リアルは9割だしな。」
帰りの車の中でそんな会話してたら
マネージャーが爆笑してた。
マ 「なんだかんだ言ってもお二人の映画、大丈夫みたいですね。」
和 「うん。最後まで終わってみないとなんとも言えないけど。」
マ 「事務所はニ宮さんにこの映画で連続の主演男優賞を期待してる
んでしょうね・・・」
和 「俺は今度はリーダーが取って欲しいなぁ。」
智 「え?無理だよ・・・」
和 「俺がサポートするから。」
マ 「大野さんが主演男優賞取ったら、それはそれで話題に
なるでしょうしね。」
和 「主演男優賞なんて、監督と共演者の力が無かったら絶対に
取れないんだよ。共演者も今回なかなかのキャスティングだし、
恵まれてると思うな・・・」
智 「そうそう。ニノの元々の恋人役って
かなり有力の新人女優さんらしいね。」
和 「あ、うん。明日多分逢えるよね。」
そうだ・・・
ニノと少しだけその女優はラブシーンが有るんだよ。
なんか心配になってきた。
和 「何て顔してんのさ?もしかしてラブシーンを心配してんの?」
智 「べつに・・・」
マ 「大野さん、このお話は大野さんが二宮さんを
略奪するお話でしょう?」
智 「そりゃそうだけど・・・」
和 「だったらもっとドッシリ構えといてよ(笑)」
智 「俺、そのシーンの時どっか行ってる・・・」
マ 「そうですね(笑)観ない方がいいかもですね。」
和 「バッカじゃないの?お芝居なのに・・・
だからこの人と仕事するのはやなんだよぉ。」
智 「そんな言い方しないでもいいじゃねえかよ・・・」
俺は口を尖らせた。
ニノとマネージャーは大笑いしてた。
でも・・・本当に俺は嫌なんだよ。
芝居でも何でもニノが他のヤツに優しくしてるところとか
マジで見たくない。
ヤバイな・・・。
女からニノを奪うってシチュエーションにだけは
めちゃくちゃ気合が入ったりして。
公私混同はマズイから
ここは芝居に集中しないとって思えば思うほど
自分の演技に自信を失くす俺。
和 「差し入れ考えてる?」
智 「あ・・・そうか・・・」
マ 「明日私がお二人からという事で差し入れは準備しておきます。」
和 「うん。助かるよ。」
智 「大福とかで良いんじゃない?」
和 「二人からだとしたらしょぼすぎるよ(笑)
大福ってお爺さんみたい。大物俳優かよ?」
マ 「ちょっと高価なのをご用意しておきますよ。」
和 「うん、そうして・・・」
智 「それじゃ、また明日ね・・・」
マ 「お疲れ様でした。それではまた明日・・・」
俺達は家に戻って風呂に入り
明日の台本を軽く読み合わせて寝る事にした。
智 「明日はロケだな・・・おいらはあんまり台詞無いな。」
和 「本当だね(笑)俺との絡みが少ないからか・・・
あなたの方が先に終われそうじゃない?」
智 「そうだな・・・」
和 「先に戻ってていいからね。」
智 「ええ?待ってるよ。」
和 「どうして?たまには先に帰って好きな事したら?」
智 「せっかくニノと四六時中一緒に居れるのに、勿体ないもん。」
和 「普通は嫌気が差すんじゃない?」
智 「そんなことないよ。俺はニノとずっと一緒に居たい。」
和 「そんなこと言ってられるのも今のうちかもよ(笑)」
そうか・・・確かに。
今はラブシーンが無いからそう思うのかな?
だけど、俺はいつでも傍に居たいんだよ。
ハイって冷蔵庫からビール取り出して
俺に渡すその手を引っぱって
よろけるニノを腕の中に抱き寄せた。
智 「2ヶ月半もずっと一緒って今まで無かったじゃん。」
和 「そうですね・・・」
ニノが脱力して身体を預けるから
俺は躊躇うことなく彼にそっと口づけた。
つづく