第28章
映画の仕事⑥
和 「やっぱりさ・・・明日はあなた早く帰りなよ。」
長い口付けの後、ちょっと含みのある笑みを見せながら
ニノが俺にそう言った。
智 「なんで?ニノは俺と一緒に戻りたくないの?
俺が居たら何かまずい事でもあるの?」
和 「中学生じゃないんだから(笑)
たまには先に帰って溜まった洗濯とか掃除とかしてよ。
二人共帰りが遅い時は全然そういうこと出来ないんだから。
その代わり、早く上がれるときは俺だって家事をやるよ。」
智 「そんなの、俺が早起きして朝からやるよ・・・」
和 「嘘ばっかり。今朝も俺の方が先に起きましたけど?」
智 「ちょっとくらい家事が溜まったからって死なないし・・・」
和 「駄目。共働きなんですから、そんなの常識です!」
智 「うっ・・・なら、ニノはもう引退考えてよ。」
和 「へえ・・・あなたが俺を養ってくれるの?」
笑いたいのを必死で堪えながら
俺の首に両腕を回す。
智 「なんだよ・・・。お前一人くらい食わせていけるし。」
和 「俺だって仕事は続けたいんですけど(笑)」
智 「そうなの?それじゃ、おいらを食わしてよ?」
和 「え?あなたまさかまた辞めたいとか思ってないですよね?」
智 「それは思ってねえけど・・・。」
和 「メンバーにもファンにも迷惑掛けらんないの分かってるでしょ?
たかが家事の分担でここまで話が飛躍するとはね(笑)」
智 「だって・・・」
和 「もう、いいですよ。好きにしなさいよ。その代わり・・・
軽くでも明日は女の子とのラブシーン有るから怒んないで
下さいよ。それが心配だから帰そうと思ってたのに。」
智 「へ?そうなの・・・?」
和 「仕事だからね・・・」
智 「ん・・・分かってるよ。」
和 「俺が好きなのは・・・サトシだけだよ。」
俺の唇に人差し指を押し当てて
うっとりとした目で俺を誘った。
俺はそんなニノの腰を引き寄せ
もう一度その柔らかい唇に自分の唇を重ねた。
駄目だな・・・多分、俺は芝居と分かってても
他のヤツとニノのラブシーンはやっぱり見るに耐えられない。
和 「・・・ンンッ・・・どうか・・・した?」
智 「やっぱり・・・明日は先に帰るわ・・・」
和 「そっか(笑)うん・・・そうしなよ。」
智 「だからさ・・・ニノ?」
和 「ん?何ですか?」
智 「しよっ・・・」
俺はニノの返事を待たずにその丸っこい手を引いて
2階の寝室に誘った。
ニノもちょっと嬉しそうに俯きながら
俺のあとを着いてくる。
寝室の扉を開けて部屋の灯も点けずに
真っ直ぐベッドに直行すると
俺は彼の事をゆっくりと押し倒し
馬乗りになって見下ろしたら
両手で俺の頬を包み込んで
俺の事を引き寄せるように
唇を優しく迎えた。
天窓から差し込む月明かりが
裸にした彼の肌を青白く照らす。
お互いの指を絡め
喉の奥を鳴らしながら交わす口付けに
甘い溜息にも似た吐息を零しながら
俺の名前を繰り返すニノ。
和 「んんっ・・・あぁっ・・・りーだぁ・・・」
俺が映画の監督だったら
それこそ・・・
今のこの表情をそのまま使うよ。
・・・ってそんな事を頭の中で考える。
和 「ん?・・・何?」
智 「いいや。それってさ、演技じゃ出せない顔だよね?」
ニノはその俺の言葉にちょっとムッとして俺を睨んだ。
智 「じょ・・・冗談だよぉ。」
とは言ったけど・・・
ニノは役者だからなぁって
心の中でちょっとだけ疑ったりなんかしてる自分も居る。
和 「それじゃ、俺が演技で感じてる振りしてるのか?
そうじゃなくて本当に感じてるのか見極めてよ。」
俺はニノが言ってる事が可笑しくて笑ってしまった。
だって・・・
実際にもうさ・・・
お互い2回も熱を噴出してるのに
演技なわけないだろう?
映画の撮影はこれをあたかも実際やってるかのように
演技で表現するわけだから・・・
俺はなんだかんだ言いながら
秘かにそんな俳優二宮和也の演技を
目の前で見れることを楽しみにしてたりもするんだ。
映画を観に来るお客さんと監督、スタッフの目は誤魔化せても
俺の目だけはきっと誤魔化せないだろうな。
だって・・・
俺はリアルに感じてるニノの表情を
いつも見ていて知ってるんだから。
つづく