Destiny
もう一つの未来 1
俺とリーダーは『CRASH』っていう、結成してそろそろ15年目になるバンド仲間だった。
バンドとしては15年も続くなんて珍しい事かもしれない。
バンドマンって個性が強い人の集まりだったりするから
普通は脱退とか新規加入を繰り返すことも一般的で、
そういう意味で言うと、うちのバンドは傍から見たら特殊かもしんない。
そりゃ、意見の食い違いは有ったりもしたけど、皆が目指してるところは同じだったから
お互いを尊重し合い、助け合ってここまでやって来た。
バンドメンバーはボーカルで最年長のリーダー、リードギターの俺、
ベースの潤、キーボードのSHO、ドラムの雅紀、の5人だ。
元々は俺が学生の頃に趣味で始めたギターを何処かで披露したくて
路上ライブしていたのがきっかけになったんだけど・・・
それは遡る事15年前・・・
「ねえ?君さ、あれ唄える?」
「えっ・・・?」
「えっと、何だっけ?ほら・・・一青窈の・・・」
「あ~ハナミズキ?」
「おっ、それそれ!唄ってよ。」
「ええっ?い、良いけど・・・」
当時は名も売れない素人の路上ライブだから、ギャラリーだって全然居なくて
この時も今のリーダー智と中学生の女の子が2,3人って状態だった。
♪薄紅色の可愛い君のね
果てない夢がちゃんと
終わりますように
君と好きな人が
百年続きますように♪
そのリクエストした本人は目をウルウルに潤ませて前のめりで聞いてるし
今までオリジナル曲を散々歌っても誰も振り向かなかったのに
この曲を歌い始めたら、道行く人が立ち止まり
気が付けば物凄い数の人が俺の周りを取り囲んでた。
曲が終わると、指笛と大きな拍手を浴びた。
今まで路上ライブやってきて初めての経験だったから
ちょっと照れ臭いのと嬉しいのと
感情をどう表現したらいいか分からなかった。
空っぽだった空き缶の中には次々とお金が投げ込まれて
アンコールリクエストの嵐だった。
その後オリジナルも含めて5曲ほど歌ってから
とりあえずその日の路上ライブを終えた。
ずっと一番前で地面に直接腰を下ろして聞いてくれてたその人が
立ち上がって俺にニッコリと微笑んだ。
八重歯がチラリと覗いて、それは何とも言えないくらい
屈託のない無邪気な笑顔だった。
「すげぇ良かった。君、上手いね。ありがとね。」
「いえ。こっちこそ・・・」
「何時もここでやってるの?」
「えっ?」
「弾き語りだよ。」
「あっ・・・ううん。ここは今日が初めて。普段は駅の付近とか色々場所を変えるから。」
「また来てよ。おいらここの近くなんだ。じゃね・・・」
って、なんともあっさりと俺の前から立ち去ろうとしたから
「あっ・・・待って!」
って、俺は咄嗟に猫背で去ろうとしてる彼の事を呼び止めてた。
俺はこの時の彼との出会いを今でもはっきりと覚えてる。
直感で思った。
これは運命なんだと。
つづく