Destiny
もう一つの未来 11
「ほらっ、早く。寝室はあっちだよ?」
「り、リーダー?」
「ニノだってそのつもりで着いて来たんでしょ?
ゴメンね。こんな長い事一緒に居ながらニノの気持ちに
気付いてやれなくて・・・それならそうと、
早く言ってくれたら良かったのに・・・。」
「えっ?ま、待って。」
気持ちを打ち明けるなら確かに今しかないとは思ったけど
どうしても目の前の智が本気でこんな事を言ってるとは思えない。
俺がニューハーフとの関係を根掘り葉掘り探ろうとしてるから
その話題を逸らすために話題を方向転換したようにも感じた。
ところが、俺がしどろもどろになっていたら
そのままソファーに押し倒されてしまった。
「ちょっ・・・リーダー落ち着いて!ふざけてますよね?」
「おいらは真剣だけど?」
そう言って俺の身体の上に馬乗りになり、両手首をロックされ
上から優しく見つめられると、もうからかわれていようが
それが嘘でも本気でも、俺は受け入れてしまうのは当然で・・・
智の顔が近づくと、俺はゆっくり目を閉じてそれを待った。
けれど、なかなか唇に触れないから、そっと目を開けてみると
智は俺の鼻先ギリギリのところで止まって俺の様子を伺ってた。
俺と至近距離で目が合うと、堪らず智はクスクスと笑い出し
俺の身体から離れ、更に腹を抱えて大笑いしてる。
やっぱり・・・からかわれたんだ。
人の気も知らないで、流石に俺だってカチンとくる。
ゲラゲラ笑ってる智の身体を今度は俺が上から抑え込んで見下ろした。
「え?怒ったの?ゴメン、ゴメン。冗談だよ(笑)」
俺は無言のままふざける智に唇を重ねた。
もう、この時の俺の感情は完全におかしくなっていた。
あと先のことなんて何も考えてない。
とにかく、からかわれた事に腹が立って
これ以上馬鹿にされたくない想いしかなかった気がする。
それはほんの5秒位の出来事だった。
ただ唇と唇を合わせただけの、俺と智のファーストキスだった。
まさか本当にするとは想定外だったんだろう。
智はキョトンと目を丸くして俺の顔を見てる。
俺はハッと我に返り、カアッと頭に血が上るのが分かり
慌てて智の身体から離れた。
お互い物凄く気まずい空気が流れ、沈黙が続く。
俺はそれに耐えれれなくて、自分から第一声を零した。
「お、俺、スタジオに戻る・・・」
「えっ?あ・・・うん・・・。」
智の顔は一切見ないで玄関に向かい、靴を履いていると
後ろから智がボソリと呟いた。
「ニノ・・・」
「な、何?」
「なんかゴメン・・・」
そのゴメンは、からかってゴメンなの?
それとも俺の気持ちに応えてやれなくてゴメンなの?
特に自分の智に対する本当の気持ちを打ち明けたというわけでもないのに
こういう時ってネガティブにしか受け取れないんだよ。
おそらく後者だろうな・・・
今何か喋ったら、声が詰まって泣きそうになってるのが
彼にバレてしまいそうで、その後ひと言も返すことなく
俺は逃げる様にその場を立ち去った。
俺がもっと臆病者じゃなくて、
好きな人に対して回りくどい事せずに
自己主張がしっかり出来る様な人間だったら
後からこんなに後悔することも無かったのかもしれない。
だって、からかわれようが、馬鹿にされようが
智への想いは、この日の出来事を境に
どんどん強くなる一方だったんだ。
つづく