Destiny
もう一つの未来 16
「あ、あの?ふざけてるんですか?」
「おいら、今から何処行くって言ったんだっけ?」
「ね?ホントさっきから変だよ?何処か具合でも悪いの?」
「しかもどうしてタクシーとか乗ってるの?」
「も、ホント怖いんだけど・・・」
「お客さん?着いたけどここで良いの?」
「あっ、降ります!すみません。」
とりあえずタクシーを降りて、訳が分からない智を自宅のマンションに連れてきた。
「とにかく散らかってるけど上がって。」
「う、うん。お邪魔します・・・」
リビングのソファーに智を座らせ、俺はキッチンでコーヒーを淹れた。
「はい、とりあえずこれ飲んで落ち着こうか?」
「あ、すまん・・・」
「ちょっと確認なんですけど、さっき俺にキスした事は覚えてますよね?」
「あ・・・うん、それは・・・」
良かった。それすら覚えてないとか言われたら
それこそ俺は何なのって話だもの。
「うんって・・・それじゃ益々怖いよ。
明日の仕事はツアーの打ち合わせだけだし
朝から一度病院で診て貰いなよ。」
「仕事・・・ツアー・・・?」
って、身に覚えが無いと言った表情の智。
「え?ふざけてるんですか?新譜引っ提げてのツアーが2か月後に
始まるからその打ち合わせでしょ。」
「・・・」
「リーダー?」
「時々この頃色々分かんなくなる・・・」
「えっ?な、何が?」
「自分が何してたかとか・・・突然なんだ。
必要も無いのにネットで色んなもの買ってたり。」
「えええっ?何それ?」
「記憶が所々途絶えるっていうか。」
「つ、疲れてるんだよ。ほら、あなた忙しいのに寝る時間も削って
絵を描いたりしてるでしょ。それ多分ストレス溜まってんですよ。」
「そうかな・・・」
「そうだよ。あなた睡眠薬飲んでるって言ってたけど
そういうのも原因ってことだって有るよ。
悪い事は言わないから、明日医者に診て貰いなよ。」
「う、うん。あっ、ところで結局はおいら何処に行くつもりで
タクシー乗ったんだっけ?」
「えっ?あーっ、リーダーが自分ちで飲み直そうって
俺の事誘ったんですよ。」
「そ、そうか・・・何かごめん・・・」
「ふふっ、別に気にしてはないよ。」
「んじゃ、おいらそろそろ帰るわ。」
「え?あ・・・待って!」
「えっ?」
「あ、いや、何か心配だよ。そんなフワフワしてて
ちゃんと自宅まで帰れるの?」
「自宅くらい・・・」
「だって、さっきタクシーの運転手に自分の自宅すら
説明出来なかったんだよ。急にまたあんな風になるとも
限らないんだから、怖いよ。」
「そ、そんなこと言われても・・・」
そう言いながらも、本人も実は不安そう。
「こ、今夜はここに泊まりなよ。」
「ええっ?」
「そうだよ。どうせ明日の仕事は一緒なんだし、
朝から俺も一緒に病院にも着いてくからさ。」
「で、でも・・・」
「俺も今夜ちょっと飲んでるし、今からあなたのうちまで
送る元気ないですしね。」
「いいの?」
「俺は構わないですよ。」
というか、むしろ泊って欲しいというのが本音だけど・・・
「じゃ、お言葉に甘えてそうさせて貰う。」
こんな事がきっかけで距離がぐっと縮まるとは
思ってもみなかったけど、
翌日の病院の診断結果で俺は衝撃の事実を知ることになる。
つづく