Destiny
もう一つの未来 21
智が睡眠薬を大量に飲んで意識不明・・・
どうして?
智は担架で救急車の中に運ばれていく。
「ニノちゃん?」
後ろから、突然聞き覚えのあるハスキーボイスに振り返ると
そこにはあのニューハーフの藍さんが泣きそうな顔で立っていた。
「あ、藍さん?」
「ニノちゃん、説明は病院でするから一緒に来て!」
「え、うん・・・」
説明?藍さんは智と一緒に居たってことか?
俺は藍さんにそう言われて一緒に救急車の中に乗り込んだ。
「ど、どうして藍さんがここに?」
「おおちゃんを一番に発見して救急車呼んだのはあたしなの。」
「そうだったんだ?」
「おおちゃん!しっかり!死んだらあたしが許さないから!」
「すみません、お静かにお願いします。」
「あんた達も、おおちゃん殺したらただじゃ済まないからね!」
「心臓は動いてますから、とにかく静かにして下さい。」
気が動転している藍さんは救急隊員にも食って掛かる。
「あ、藍さん、落ち着いて・・・」
俺だって平気な訳じゃないけれど、今は藍さんを落ち着かせることで
自分も平常心を保ってたのかもしれない。
病院へ搬送されて処置室で医師の手当てを受けてる間、
俺と藍さんは待ち合いの部屋のベンチに並んで腰掛けて
智の手当てが済むのを待った。
「藍さん?リーダーが大量の睡眠薬を飲んだって、それ本当なの?」
「うん・・・間違いないよ。あたしが部屋に入った時
寝室のテーブルの上にお薬の殻が散乱してたから・・・」
「藍さんは以前リーダーの家に一度も上げて貰えないって
言ってたよね?どうして今日はリーダーの家に?」
「おおちゃんから買い物を頼まれたのよ。」
「買い物?」
「そう・・・食材とか色々・・・」
「ふうん・・・そうなんだ?」
「夕べ電話あって、ニノがうちに来るからって
凄く嬉しそうだったんだけど・・・」
「えっ?」
「あたしとおおちゃんはね、幼馴染みなんだ。
小学校からずっと一緒でさ。」
「え?幼馴染み?」
「あたし身体が弱くて華奢だったから、子供の頃から
同級の男の子達に虐められててね。
おおちゃん、ずっとあたしのこと助けてくれてたの。」
「そ、そうだったんだ。」
「大学も同じ美大に通ってたんだよ。
あたしは大学卒業して直ぐにニューハーフの世界に入ったんだけど
あの時はすんごい反対されたんだ。
それまではおおちゃんも普通に家に入れてくれてたのよ。
あたしがオカマになったきっかけはおおちゃんを
好きになったからだもん。それ打ち明けたら
もう二度と家にあげてくんなくなってさぁ。
ようはあっさりフラれちゃったんだよねぇ。
あたしはそれでもおおちゃんが好きだし、
彼には子供の頃から守って貰った事への恩が有るの。
口は悪いけど、心配して店にもしょっちゅう来てくれたしね。」
「知らなかったな・・・」
「ニノちゃん、ところでおおちゃんの病気って何なの?」
「えっ・・・」
「ライブ中止の報道見たけど、おおちゃんが病気療養って書いてあった。
おおちゃんに聞いても何も教えてくれないし、仕事出来ないくらい
深刻な病気なの?」
「藍さんにもまだ話してないんだ?」
「うん。誰にも話さないって約束するから
あたしには教えてくれないかな?」
「若年性の認知症らしいの。」
「えええっ?」
「驚くよね?だって見た目には全然普通だし、
何処から見ても健康体なんだもんね。
俺もまだ信じられなくて・・・」
「それって治るの?」
俺はゆっくりと首を横に振った。
「ええっ?それじゃおおちゃんはどうなるの?」
「発見が早かったから、治療は有効的だって言ってた。
でも、それは進行を遅らせるというだけの事で
この先どうなるかは分からないらしいんだ。
リハーサル中に歌詞が飛んで歌えなくなった・・・
だから一旦仕事は休ませて貰ってるんだ。」
「そ、そんな・・・おおちゃん、それをまさか気に病んで
睡眠薬を・・・?」
「いや・・・それは多分違うと思う。だって、夕べ俺も電話で
あの人と普通に会話したし、俺が逢いに行くと言ったら
楽しみにしてるとも言ってたから。
自殺なんてことはどう考えても絶対に有り得ないと思う。
ただ・・・」
「ただ?」
「もしかすると、お薬を飲んだかどうかも記憶が無くなって
無意識に大量に飲んだ可能性はある。」
「えええ?」
「リーダーは今のところ、遠い過去よりも
どうも側近の記憶が不安定みたいなんだ。
今何をしようとしてたかを分からなくなったり・・・」
「病気が今回の事故の原因だってこと?」
「うん。でもこれは本人に確かめないと分からないけど。」
「ねえ、どうしてそんな危険な状態なのに
おおちゃんを一人にしてるのよ?
ニノちゃん、おおちゃんと付き合ってるんでしょ?
何で一緒に住んでいないの?」
「あ・・・いや、それは・・・」
まだ藍さんはあのことを信じてるんだ?
「まさか病気になったからって離れる気じゃないよね?」
「えっ?そ、そんなことは・・・」
「だったら、二人は一緒に暮らすべきだよ。
おおちゃんにこれから先だって何が有るか分かんないんだよ?
ちゃんと傍に居て支えてあげなよ。」
「う、うん・・・」
「約束だからね!おおちゃんには幸せになって貰いたいのよ。
あたしなんてどうなってもイイから!」
「藍さん・・・」
藍さんは目に涙を浮かべて俺に力強く訴え掛けた。
つづく