Destiny
もう一つの未来 23
その翌日、俺は退院が午後からと聞いて
智を迎えに病院へと向かった。
夕べ自分のマンションに戻った俺は、とりあえずの生活に必要な
着替えや日用品を鞄に詰め込み、智と一緒に暮らす気満々でいた。
「リーダー、待った?」
病室に入ると、智の姿は無かった。
まだ診察でも受けてるのかな?
俺は辺りをキョロキョロと見回した。
俺は直ぐに様子が変だってことに気が付いた。
それは、ベッドが綺麗に片付いてる事・・・
ベッドに表示されてた智の名札が外されていた事。
慌てて廊下に出て、部屋の入口を確認しても
「大野智」の名前が外されてあった。
俺は慌ててナースステーションへ向かった。
「あ、あの!すみません。」
「はい?どうされました?」
「501号室の大野智、居ないんだけど・・・」
「ああ・・・大野さんでしたら1時間ほど前に
退院なさいましたけど。」
「えっ?だ、誰か迎えに来てました?」
「さぁ。お一人だと思いますけど。」
「声がっさがさで派手な女性が一緒じゃなかったですか?」
「お帰りになられる時はお一人でご挨拶に来られたんで
ちょっとそこまでは・・・」
「マジかよ・・・あ、分かりました。すみません。」
俺は急いで自分の車に戻り、智の携帯に電話を入れた。
着信にはなるけれど、応答がない。
そういえば、救急車で運ばれる時、携帯なんて持ってなかっただろうから
恐らく自宅に置きっ放しなんじゃないか?
ってことは、智はまだ自宅には戻っていない。
あと、考えられる事は、藍さんが俺より先に智を迎えに来た?
丁度昼時だから、真っ直ぐに帰らずに何処かで飯でも食ってる?
俺は藍さんの携帯に電話を入れてみた。
昨日、番号交換しておいて良かった。
「もしもし?ニノちゃん?」
「あっ、藍さん?俺、二宮です。」
「どうしたの?おおちゃんも一緒?」
「え?藍さん一緒じゃ無いんだ・・・」
「ええっ?何?一緒なわけないじゃん。おおちゃん病院でしょ?」
「俺、今病院なんだけど、リーダーが居ないんだ。」
「えええっ?居ないってどういうこと?」
「退院して勝手に一人で出て行ったみたいなんだ。」
「やだ、うそ?」
「そうか・・・藍さんと一緒だとばかり思ってた。
一人で何処行っちゃったんだろう。」
「待って!あたしも今直ぐそっち行くから。」
「あ、俺は今からとにかくリーダーのマンションに直接向かうんで。」
「分かった。それじゃ、あたしもおおちゃんのマンションに向かうわ。」
あれだけ俺が迎えに行くと言っておいたのに。
勝手に居なくなった智に少し苛立ちながら俺は車を発車させた。
マンションに到着すると、既に藍さんの車がマンションの向かい側に停まってた。
運転席の窓が開いて、俺に向かって藍さんが手を振った。
「ニノちゃん、こっちこっち!」
「あ、藍さん。」
「車置いてきなよ。おおちゃんの行きそうな所、心当たり有るの。
あたしの車で行こう。」
「う、うん。」
藍さんは、智が行きそうな場所に心当たりが有るという。
俺も智とは長い付き合いだし、ずっとあの人の事見てたけど
実は知らない事だらけ。
それに比べて藍さんは俺なんかよりずっと智のこと知ってるし
プライベートで言うと、本当に俺とかよりずっと近くに居たんだ。
何か急に落ち込んだ。
「藍さん、リーダーが行きそうな場所って?」
「先ずは実家に行ってみよう。」
「実家?」
「だって、おおちゃんも自分の病気の事は十分分かってるんだし
幾ら何でも今回ばかりは無意識に薬を飲んじゃったわけじゃん。
一人になると何が起きるか分からないから怖くなったんだと思うの。」
「で、でも、俺今日から一緒にリーダーと暮らすって
そう言ってたんだよ?」
「ほら。だからよ。」
「えっ?」
「好きな人にこれ以上迷惑掛けられないと思ってるんだよ。
おおちゃんなら考えそうじゃない?」
「あっ・・・」
そ、そうか。何でそこに気付かなかったんだろう?
俺ってつくづく馬鹿だな。
俺も馬鹿だけど、智はもっと馬鹿だよ。
何時まで俺のこと覚えてられるか分かんないっていうのに。
俺は胸がギューッと締め付けられて
藍さんに気付かれない様に窓の外を眺めるフリして
声を押し殺して泣いた。
「ニノちゃん・・・?」
「え・・・」
「駄目だよ?泣くときは思いっきり泣かないと!
堪えたって何もいいことなんか無いよ。
辛いことは涙で洗い流すんだよ。
そしたらね、次は必ずとびきりチャーミングに笑えるんだよ。
知らないでしょ?」
「あ、藍さん・・・うううっ・・・」
病気の事を知らされて、智の異変の目の当たりにして
正直、気持ちの整理する暇が無かった。
気が付いたら今になってて
溜まってた何かが突然滝のように溢れて止まらなかった。
藍さんの優しさが心に沁みた。
つづく