Destiny
もう一つの未来 26
そして、智と俺の同居生活が始まった。
マンションに戻って、俺は駐車場に停めてた車から
荷物を詰め込んだ鞄を下ろして智の部屋に向かった。
久し振りに入った智の家の中は相変わらず油絵具の匂いが充満してた。
「ちょっと窓開けましょうか?空気入れ替えないと。」
俺はそう言って部屋中の窓を開けた。
寝室に入ったら、藍さんの言ってた通り
薬の残骸がテーブルに散乱してて
嫌な事を思い出すといけないから
俺は慌ててその薬の残骸ごとゴミ箱に捨てた。
「何してんの?」
「えっ?あ、ううん。何でもない。ほら、今日からここに
俺も寝るんで、ベッドの広さを確認してたの。」
「一緒に寝るの?」
「勿論。」
「いいの?」
「えっ・・・いいのって・・・別に寝るとこ有るの?」
「え・・・いや、無いけど。」
何か物凄い嬉しそうな顔で智が笑う。
それが何を意味してるのか、この時は本当に
薬の事を隠す為に必死だったから
あまり深く考えていなかった。
それから順番に風呂に入り、寝るにはまだ少し時間もあったから
俺達はリビングのソファーに座って
今後の事について話をした。
「あのさ、俺とりあえず明日は仕事有るんだ。
でね?昨日ここに来るって言ったのには
実は大事な話が有ったんだ。」
「ん?大事な話?」
「そう。俺達のバンドの今後の事・・・」
「ああー、その事か。」
「俺としてはもうあなたには仕事辞めてゆっくりした方が
いいんじゃないかって思うから、新メンバーのボーカルを探す方向で
やってくって提案したんだけど、リーダーのボーカル以外で
CRASHの継続は有り得ないって皆言ってて、それならば
やっぱり解散するしかないかなって・・・」
「でも・・・おいらも働かないと飯が食えなくなるし。」
「リーダーは絵を描きなよ?」
「え・・・」
「だって、元々それが一番やりたかった事でしょ?」
「そ、それは・・・そうだけど。」
「あなたには絵の才能も有るんだし、無理して今の仕事続けなくても
絵でも十分食っていけると思うよ。」
「そんなこと、皆許してくれるかな?」
「病人に無理して働かせるほど皆鬼じゃないよ。」
「で、でも・・・」
「何もしないってのも退屈でしょ?
だから好きな絵を描いてそれを仕事にすれば
こんな一石二鳥な話はないわけで・・・」
「いいのかなぁ・・・」
「イイに決まってるよ。俺が皆と事務所には先に話しておくからさ。
もう何も心配せずにあなたは病気の治療と
絵を描くことに専念するといいよ。」
「じゃ、ニノ、モデル引き受けてよ。」
「え・・・待って。何でそうなるの?」
「だって、こないだも言ったじゃん。」
「いやいや・・・あれは冗談だったんじゃ・・・」
「冗談なもんか。おいらはニノをモデルに絵を描きたいって
ずっと思ってたんだ。」
「マジかよ・・・」
「ね?いいでしょ?」
「何か恥ずかしいよぉー」
「お願いだから!」
「うーん。ま、いいですけど。その代わり服は脱ぎませんよ?」
「はっ?何で?」
「ばっ、馬鹿じゃないの?脱ぐわけないでしょ?」
「ははははっ・・・うそうそ、冗談だよ。」
「もぉー、ビックリしたじゃん!馬鹿さとし!」
「んふふふっ。でも・・・モデルは本当にお願いするよ。」
「ん、構わないよ。」
そう言ったら、智は久し振りに元気な笑顔を俺に見せてくれた。
俺と居る事で、この笑顔を失くさずにいてくれれば
俺はそれだけで十分だって思った。
「それじゃ、そろそろ寝るか?」
「うん。」
俺は智の後を着いて寝室に入った。
電気を消してベッドに入ると、俺は智に背中向けて横になった。
そうしたら、次の瞬間智の手が俺のお腹の辺りに伸びて来て
そのまま後ろからスッポリとハグされてしまった。
つづく