Destiny

Destiny もう一つの未来 29

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もう一つの未来 29

 

 

 
「藍って・・・誰?」

「えっ?」

まさか藍さんを忘れてしまったの?
あんなに仲良かったのに?
智は鳴りっぱなしのスマホを首を傾げたまま
不思議そうに覗いて応答せずにいるから

「ちょっ、それ俺が出るから貸して下さい。」

俺は智からスマホを受け取り、とりあえずその電話に出た。

「も、もしもし・・・?」

「えっ?あっ、ニノちゃん?おおちゃんは?」

「え・・・あっ、う、うん。ゴメン、今ちょっと席外してて・・・
 何か急用とか?」

「あ、うん。ちょっと話したい事あったから。」

さすがに藍さん本人に、本当の事は言えないよ。
だって、智が自分の事を分からないって聞いたりしたら
藍さんのショックはなんとなく想像出来るから。

「お、俺で伝えられる事なら伝えとくけど・・・」

「じゃあさ、次の日曜日ちょっとだけお邪魔してもいいかな?」

「えっ?あ・・・うん。それは構わないけど。」

「それじゃ、また当日の朝にでも連絡するね。」

「わ、分かった。伝えとくよ。」

「うん、お願いね。じゃ、またねぇ。」

俺は電話を切ってフゥーッと大きく息を吐いた。
嘘付くのって物凄くエネルギー使うものだな。
当の本人はというと、さっぱり意味が分からないって表情で
キョトンと目を丸くして俺を見てる。
どうやら、マジで藍さんの事思い出せないようだ。

「あ、あのさ?藍さんのこと、本当に誰だか分からないの?」

「うん、藍って誰なの?」

めちゃくちゃショックだった。
進行を遅らせる治療の真っ最中だっていうのに
確実に記憶が一つ一つ彼の中から消えてってる。
一体どういうことだろう?
もしかしたら、このまま俺とこうしてる時間でさえ
そのうち全て消え失せてしまうって事なの?
そんなことを考えてたら、一気に不安が押し寄せてくる。
嫌だ!どうすればいい?

「ニノ・・・?」

「お願いだから・・・俺の事だけは忘れないで!」

「ええっ?何言ってんだよ。おいらがニノを忘れるわけがないじゃん。」

「本当に・・・?」

「うん。」

「約束してくれる?」

「んふふ。大丈夫だって。」

智の笑顔は何時もと何も変わりなく優しい。
だけど、本人ですら自分に何が起きてるのかも
恐らく分からないんだと思うと、なんだか辛過ぎて
勝手に涙が溢れて止まらなくなった。

「泣いてるの?」

「ううん・・・そんなんじゃ・・・」

「泣いてるじゃん。泣かないでよ。」

「ゴメン・・・だって。」

智が凄く困ったという顔して俺の顔を下から覗き込んだ。
そして細い指先でそっと俺の頬に伝う涙を拭ってくれた後、
ゆっくりと俺の顎を指先で持ち上げて
そっとその柔らかい唇を俺に重ねた。

一緒に暮らすようになって、半年が過ぎてたけど
ちゃんとキスを交わしたのはこの時が実は初めてだった。
それは智が求めないなら、無理に俺から迫っても
気まずくなるのが怖かったからだ。

だけど、もうお互いの気持ちは十分通じ合ってる。
このまま心も身体も一つになりたい・・・
そう思うことはごく自然の流れだと思った。
俺は智とそのままフロアに膝から崩れ落ち、
彼を押し倒して馬乗りになると、
俺の方から再び口付けながらシャツのボタンに手を掛けた。

すると智は俺のその手を掴んで首を横に振り
それから先を拒んだ。

「これ以上は・・・駄目だよ。」

「なっ、何で?あなたは俺のこと欲しくないの?」

「欲しいよ。」

「だったら・・・」

智は目を伏せて再び首を横に振った。
そして、身体を起こすと、俺の事を力一杯抱き締めた。

「おいらさ、この先どうなるか分かんないだろ?
 こんなんだしさ・・・」

「それが何だっていうの?」

「ニノ、真面目に聞いてくれ。」

「やだっ!」

「ニノ、頼むから・・・ちゃんとおいらの話を聞いてくれ。」

逃げ出したかった。
耳を塞いでしまいたかった。
だって、俺は智が好きで好きで仕方ないんだもの。
智がこれから俺に何を言おうとしてるのか・・・
おおよそ検討が付いてた。

だから、抱き締められたまま
俺はただ泣くしかなかったんだ。

つづく

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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