Destiny
もう一つの未来 3
智の紹介でドラムの雅紀とキーボードの翔さん、そして俺の3人でバンドを組むことになった。
だけど、やはりベーシストの居ないバンドでは正直活動は難しい。
それでもスタジオ借りて3人で練習を始めてたんだけど、
ある日、智が一人の青年を俺達に紹介すると連れてきた。
それが潤だった。
潤は初めて会った時、あまり乗り気ではなさそうな態度だった。
「ベースやってる子探してたんだよね?」
「うん。あなた随分顔が広いですね。」
「たまたま同級の友達の弟が以前バンドやってるの聞いてたからだよ。
潤くん、今もベース弾けるって言うし・・・」
「潤くんっていうんだ?」
「一度どんな感じか聞かせてもらって良いかな?」
「え?あ、うん。いいけど・・・」
自己紹介抜きでいきなり?って思ったけど
まぁ、バンドのイメージ合わなけりゃメンバーに加わる気も無いんだろうから
それは特に深く考えないけど。
俺達は潤くんと智の前でオリジナル曲を1曲披露した。
ワンコーラスが終わると、潤は突然自前のベースを取り出して
勝手に演奏に合わせてベースパートを弾き始めた。
譜面無いのにワンコーラス聞いただけでセッション出来るなんて凄い。
もしかして、彼は絶対音感の持ち主とかか?
フル演奏が終わり、直ぐに翔さんが潤に話し掛けた。
「君、凄いよ!是非うちのバンドに入って欲しいけど。」
「うーん・・・どうしようかなぁ。」
「頼むよ。腕利きのベーシストなかなか探しても見つからないんだ。」
「いいよ。でも、条件が有る。」
「じょ、条件?」
「やる以上、絶対メジャーデビューする。」
「あ、うん。それは勿論、俺達は皆それが目標だから・・・」
「それから・・・」
「それから?」
「ボーカル・・・」
「え?」
「今おたくがギター弾きながら唄ってるよね。」
俺を指差しながらそう語り掛けてきた。
「え・・・うん。」
「ボーカルは大野さん。それなら参加してやってもいいよ。」
「え・・・ええええっ?ま、待ってよ潤くん?」
「大野さんは無理でしょ?バンド経験ゼロだし。」
「えっ?知らないの?」
「し、知らないって何を?」
「お、おい、潤くん・・・」
智が慌てまくって潤くんの口を手で塞いだ。でも、その手を振り払って
潤はその続きを言い放った。
「この人、めちゃめちゃ上手いんだよ。嘘だと思うなら何か1曲歌ってもらえば。」
俺達は驚いてお互いの顔を見合わせた。
「や、やだなぁ。何言ってんの?おいら歌なんか歌えるわけがないでしょ。」
「それじゃあ、悪いけど俺のバンド加入は無かった事に・・・」
「ま、待ってよ。おいらボーカルとか出来ないけど、1曲だけなら歌う。
歌うからそれで勘弁してくれよ。」
それを聞いた潤はニヤリと笑って
「ま、いいや。とにかくちゃんとふざけないで歌ってよ。」
「わ、分かってるよ。」
智はそう言ってスタンドマイクの前に立ち、軽く咳払いをして
マイクの高さを調節した。
「んじゃ、1曲だけだよ?約束だからな?」
そう言ってアカペラで静かにバラード曲を歌い始めた。
つづく