Destiny
もう一つの未来 30
智は俺を抱き締めたまま、泣いてる俺に話を続けた。
「おいら、自分の病気が治らない事は知ってる。
この病気は治療で進行は遅らせる事は出来るけど
最後は遅かれ早かれ色んなことが分からなくなる。
おいらはそれでもニノの事だけは、絶対に覚えていたい。」
「だったら・・・」
「ちゃんと最後まで聞いてくれ。
おいらが例えそう思っていても、もしかしたら
ニノとの思い出も全て忘れちゃうかもしれないんだ。
おいらはニノには幸せになって欲しいって思ってる。」
「そんなこと言うなら、あなたが幸せにしてくれればいい!」
「うん。勿論そうしたいさ。
だけど、自分の意思だけではどうにもならないかもしんないし
もしも万が一俺からすべての記憶が消えてしまったら
ニノにとんでもなく辛い想いをさせてしまうだろ?
だから・・・少しでもその時にニノが悲しまなくても
済むようにって考えたら、今の関係でも十分なんじゃないかって
おいらは思ってるんだ。」
「そんな!あなた逃げてるだけじゃん。ズルいよ!」
「そうかもしんない。」
「あなたが認めたって俺が認めないから。」
「おいらが身勝手なのは重々承知で言ってんの。
これ以上の関係を望むのなら、今直ぐおいらの事は
忘れてニノはもっと他の誰かと幸せになってくれ。」
「何を言ってるの?正気で言ってるの?
あなた以外の人なんかと幸せになんかなれるわけないでしょ?
あなたは本当は俺のことなんか何とも思っちゃいないんじゃないの?」
智があんまり分かんない事並べるから、俺はかなり興奮気味で
ついそんな酷い台詞を吐いてしまう。
「関係なんか持ったら、後で辛いだけなんだって・・・。
それがお互いだったら分かるけど、そうなった時に苦しむのは
ニノ、お前一人だけなんだよ。分かってよ・・・」
言いたいことは痛い程分かる。
智ってそういう人だ。そういう人だから好きになった。
いつも自分の事よりも俺や周りに気を遣う。
一番辛いのは智だっていうのに・・・
関係を持てば、悲しみが増幅していくのを恐れて
その一線をこのまま一生超えられないっていうのか。
残酷過ぎるよ。
でも・・・俺は智から何が有っても離れないと決めたから
抱かないとい理由だけで、この人から離れるつもりはない。
俺は手の甲でサッサと涙を拭って
智の額に自分の額をくっ付けて俺の覚悟を告げた。
「いいよ。智がそこまで言うのなら、俺はあなたとこれ以上の
関係は求めない。だけど俺は例えあなたが俺を分からなくなっても
あなたから離れないから、それだけは覚えてて。」
「どうしてそこまで・・・?」
「俺はあなたを本気で愛してるんで。」
「ニノ・・・」
「一つ約束して貰って良いですか?」
「えっ?」
「これから先、俺に気を遣うのだけは止めてよね。
俺は自分が好きであなたとここで暮らしてるの。
俺の幸せは俺が決めます。他の誰かと幸せになれなんて、
今度そういう事言ったら承知しないから。」
言ってて正直辛かった。
愛してるのに一線超えられない寂しさって無かったから。
でも、それが智の優しさでもあるし、
智自身、本当は一番辛いって事も分かってるから
ここは俺が我儘貫くしかないんだと思う。
とにかく、病気がなんとか留まってくれる事を今は祈るだけ。
状態が安定すれば、精神的にも安定してきて
そのうち考え方だって今より前向きになれるかもしれない。
微かな望みを持つことで俺もメンタルをなんとか支えてる感じだった。
それからそんなことが有って数日後
藍さんが何か大事な話が有ると言って俺達の前に姿を現した。
つづく