Destiny,  もう一つの未来

Destiny もう一つの未来 32

Destiny

もう一つの未来 32

 

 

 
それから智は1週間の滞在予定でスウエーデンに旅立ち、
現地の病院で田所先生の知り合いの医師に治療法の相談を受けに行った。

智が不在の間、俺は不安で仕方なかったけど、
もしかすると、病気を完治させる方法が何か見つかるかもしれないって
期待に胸を膨らませて、帰国して来るのを一人大人しく待った。

予定通り、1週間後には智は日本に帰国した。
智はスウエーデンの病院で、様々な認知症に関しての検査を受け
その結果が帰国した数日後に田所先生の所に送られて来るのだそう。
結果を見てから、どの治療法が智に一番有効なのかを考えて
そのプログラムを指示されるという。

帰国から数日後のある日、俺と智は田所先生に呼ばれ先生の病院を訪ねた。

「先生、スウエーデンでは色々お世話になりました。」

「いえいえ、僕は同僚を紹介しただけなんで・・・」

「それで、智の病気は治る見込み有るんですか?」

「今朝早く検査結果とそれを受けてのプログラムのデータが
 送られて来ました。」

田所先生は、そのデータをパソコンのモニターに開き
腕組みをして目を細めながらその画面を見つめた。

「うーん・・・それがですね、大野さんの場合、
 ちょっと厄介なんです。」

「えっ・・・」

「あ、すみません。誤解なさらないようにご説明しますが、
 大野さんの病気は認知症は認知症でも、少し一般的な
 症状とはタイプが違ってるんですよ。」

「ど、どういう意味ですか?」

「実は・・・」

田所先生は俺達素人にも分かり易く説明をしてくれた。
それは、従来の認知症というのは
アルツハイマー型と呼ばれるものが殆どで
記憶が無くなる他に自分の行動が分からなくなり
突然無意識に徘徊したり、最後は命にも関わったりもするらしいけど
智の場合は、断片的に徐々に記憶が消えていくだけで
命に直接関わったりはしないそう。
そこだけ聞くと、俺はホッとするんだけど
やっぱり放っておくと、最後は記憶が全て消えてしまうという。
つまり、若年性の認知症と一括りで考えるよりも
少し厄介な脳障害のようなものだと先生は言う。

「それで、先生?智の病気は治療をすれば治るんですか?」

「従来の投薬の治療では限界が有りますね。
 ただ、一つだけこういう大野さんの様なパターンの患者さんに
 有効的な治療法が有るには有りますよ。」
 
「ほ、本当ですか?」

「これはちょっと辛いお話をしなくてはならないんですが・・・」

「えっ?・・・教えてください。どういう意味でしょうか?」

「大野さんの今迄の記憶を故意に全て消してしまわなくては
 ならないです。勿論、ご本人の任意でという事になりますが
 何もせずにこのまま投薬の治療を続けていても
 細切れにどんどん記憶が無くなるでしょう。
 それだけじゃなくて将来の記憶も留めておく保証は
 どこにも有りませんから、現状の治療ではご本人には相当の
 不安とストレスが襲い掛かるでしょう。
 記憶を一度に失ってしまう事は確かに辛い事ですが
 人間関係は焦らず新たにインプットしようと思えば
 どうにかなるものです。
 上書きされる記憶は消えることは無いわけですからね。
 大野さんはまだお若い。なので、人生これからを
 幸せに生きていく為にも僕はこの治療は
 是非ともお勧めしたいですが、決めるのは大野さんです。
 徐々にとはいえ消えゆく過去の記憶に縋って生きていくのか、
 上書きしていく人生を大切に生きていくのか・・・」

「そ、そんな・・・」

智は先生の説明を聞いて顔色が真っ青になっていた。
横で聞いてた俺も、きっと同じ表情になってたと思う。
だって、今の先生の話だと、一時的に記憶喪失の状態に
なってしまうってことだもの・・・

俺との思い出も、CRASHの事も、そしてそれ以外の全ての記憶が
智からリセットされるってことだ。

「先生?」

「何ですか?大野さん。何でも聞いて下さって結構ですよ。」

「それって、どれくらいでお返事すると良いですか?」

「出来れば早目に越したことはないですが・・・
 まぁ、直ぐに記憶を消されるのもお辛いでしょうし
 少しお時間掛けてご親族の方やお知り合いの方と
 相談なさって決めて下さって構いませんよ。」

「そうですか・・・分かりました。
 それじゃ、少しだけ考えさせて下さい。」

俺達の過去が・・・大切な思い出が全部消えちゃうなんて
そんなの残酷過ぎるよ。
だけど、智はこのまま放っておけば
病気自体を死ぬまで背負ってしまう事になる。

帰りの車の中で、助手席に座った智は
車窓からずっと外の景色を見て、ひと言も喋らなかった。
そりゃ、気持ちの整理なんて出来るわけがないよ。
俺だったら、きっと耐えられないって思う。

何と声を掛けていいのかも分からなくて
このまま真っ直ぐ家に帰る気もしなくって
俺は目的もなくただ無心に車を走らせていた。

つづく
  
 

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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