Destiny
もう一つの未来 33
「ニノ?家、こっちじゃないよ?」
「ん・・・たまにはさ、遠くまでドライブも良いかなって思って。」
べつに、行く当ても無いけど、真っ直ぐ帰宅しても
智と何を話していいのか分からないっていうか
運転してる事で多少気が紛れるっていうか・・・
「どっか行きたい所とか有ります?」
「うん・・・」
そりゃ、突然そんな事聞かれても困るよね。
さっきまで田所先生から衝撃の治療法を勧められたばかりだもの。
智の頭の中は今はその事で一杯なのは分かってる。
俺だってそうだけど、今は何も考えたくない。
「どうせさ・・・」
「えっ?」
「どうせ、これからどんなに二人で思い出作ったところでさ
結局は全部忘れちゃうんだよね・・・」
「・・・」
これに対して何て返事をしていいものか。
俺が言葉に詰まっていると
「海が見たい・・・」
「え?」
「海・・・連れてってよ。」
「う、うん・・・」
海岸沿いの国道に向かって1時間ほど車を走らせた。
通り道にコンビニを見付けて、駐車場に車を停めた。
「コーヒー買って来るけど、何か欲しいもの有ります?」
「ううん。おいらは大丈夫。」
「じゃ、直ぐ戻るからここで待ってて。」
俺は一人で車から降りて店内に入ってった。
ホットコーヒーとブリトーを買って
急いで車に戻ったら、智の姿が消えていた。
「さ、智?」
トイレかな?
俺はてっきり智がトイレに行ったと思って
暫く車の中で智が戻るのを待っていたんだけど
10分経っても戻って来ないから、ちょっと心配になって
車から降りて智を探した。
トイレにもコンビニの店内にも智の姿は見当たらない。
さっきから思い詰めてた感じ有るし・・・
計画的に俺の前から失踪した?
まさかさっきの先生の話がショックで自殺?
そんな馬鹿な事は流石に考えないよね?
携帯に電話するけど電話にも応じない。
俺は隣に駐車してた車の持ち主に智を見なかったか
聞いてみると
「あ、あの人CRASHのボーカルだよね?
誰かに似てるって思ったけど、やっぱそうなんだぁ。
え?ってことは、あなた二宮さん?」
「えっ・・・あ、そうはそうなんだけど・・・
大野さん、見たんですよね?どっちに行きました?」
「そこの前の道を渡ってたから、海岸に降りてったんじゃないかな。」
「そ、そうなんだ?教えてくれてありがとう!」
俺は走って海岸の方向へ向かった。
堤防をよじ登って辺りを見渡すと、
智が流木みたいな物に腰掛けて、ボーッと海を眺めてる姿を見付けた。
もう・・・頼むよ。驚かさないでよ!
俺は全速力で智が居る方向に走った。
智は俺に気付いて、何をそんなに慌ててるんだ?って
表情で俺を見てる。
「はぁはぁ・・・さ、智・・・」
「えっ?」
「えっ?じゃないよ!もう、何なのよ?スマホは?」
「え・・・あ、車に置いて来た。」
「何だよそれ。人がどんだけ心配したと思ってるの!」
「そうか・・・ゴメン。」
「はあぁ・・・もう寿命がどんだけ有っても足りないよぉ。」
「まあ、ニノも座りなよ。気持ちいいから。」
俺は智の横に並んで腰を下ろした。
波が間際まで打ち寄せる場所で暫くぼんやりと
二人で海の向こうを眺めてた。
季節は初夏に差し掛かろうという時期だから
まだちょっと浜風が冷たく感じる。
「さっきはゴメンな。」
「え?そ、そうですよ。勝手に居なくなるなんて
これからは勘弁して下さいよ!」
「あ、いや・・・そうじゃなくてさ。」
「ん?そうじゃないって?」
「ほら、さっきつまんない愚痴零したじゃん。」
「えっ?何?」
「これからどんなに二人で思い出作ったとしても
全部忘れちゃうって・・・」
「あぁ・・・そのことか・・・」
「うん・・・」
「謝る事無いのに。」
「ううん。あんなこと言われたら辛いのはニノなのに。」
「そ、そんなこと。」
「おいらは全部忘れても、ニノはちゃんと思い出として
覚えててくれるんだもんね。俺が悲観的にならなくても
ニノが全部覚えておいてくれればいい事なんだよな。」
「智・・・」
「記憶が無くなるけどさ、ニノはおいらの事
嫌いにならない?」
「なに・・・言ってんすか・・・」
駄目だ。そんなこと言わないで。涙腺が崩壊寸前だよ。
「おいらは生まれ変わるけど、
生まれ変わってもまたニノの事を好きになる自信が有る。」
「うっ・・・ううっ・・・当たり前じゃないか!」
「これから、暫くニノと思い出を沢山作るけど、いいかな?
おいらの記憶が消された後で、ニノがおいらに全部話して
聞かせてくれる?」
「うん・・・勿論だよ。」
「んふふふ。ありがとう。約束な?」
「・・・うん。」
智が俺の肩に腕を回して泣いてる俺の頭を優しく撫でるから
更に涙が止まんなくて、俺は智の胸にしがみ付く様にして
大号泣した。
「ふふふっ・・・なんだ?その顔?」
「えっ?」
「すげー不細工だな(笑)」
「なっ!誰のせいだよ?」
「愛してるよ・・・」
「えっ///」
波の音でかき消されたけど、俺が一番嬉しいひと言を
囁きながら智はそっと俺にキスをした。
つづく