Destiny
もう一つの未来 35
それから1時間位、二人で智の残されたひと月っていう時間の
事細かなスケジュールを立てた。
俺は凄く複雑な気分だったけど、智って人は
本当に強い人なんだなって思い知らされる。
実際に自分が智の立場に立たされたら、やっぱり
同じことをするのかな。
多分俺なんかは考えても仕方ないから
期限は決めたとしても、毎日その日が来るまでゲームとかして
他の事一切考えない様にするかも・・・
とにかく、俺を記憶してくれてる智と過ごせる時間の
カウントダウンは既に始まってしまった。
泣いても笑っても、あとひと月だってこと。
「あ~疲れたな。とにかく風呂入って寝るか。」
ドキッ・・・そうだよ。
遂に俺達は正真正銘の恋人同士ってことになるんだ。
智の当たり前のトーンの”寝る”ってワードが
この人本気なのかなって、まだ半信半疑だったりするんだけど
自分から俺としたいことの一番に取り上げてくれるくらいだから
今夜は間違いないはずだ。
若干緊張しながら風呂に入り、
その緊張を解す為に、軽く風呂上がりのビールを飲んで
全く持って意味不明なストレッチを始める俺。
それに引き換え、俺とは正反対に全然何時もと何も変わりなく
Tシャツ、ジャージ姿で歯磨きしながら戸締りのチェックしてる智。
本当にやる気あんのかな?
先に寝室に入ってベッドの淵に腰掛けてスマホ開いて
ネットニュースとか覗いてたら、智がやって来て
俺の隣に腰掛けた。
「お待たせ・・・」
そう言ったかと思うと、俺の手からスマホを奪い取って
ベッドの横のローテーブルの上にそれを置いた。
そして、さっさと着ていたTシャツを脱ぎ捨てて上半身裸になった。
「早く!ニノも脱いで!」
「えっ?」
「服着たまんま出来ないじゃん。」
「あ・・・う、うん・・・」
「何?どうしたの?やっぱおいらとは嫌か?」
「そうじゃないけど、あなた少しは緊張とかしないの?」
「きんちょう?・・・んふふふっ。しないよ。
だって彼氏まで緊張してたら出来ないじゃん。
可愛いなぁ、ニノは緊張とかしてんだ?」
「ふ、普通はするでしょ///」
「あー、おいらどうしてもっと早くしなかったんだろ。
我慢して損したよぉ。」
「え・・・」
「いいから、早く脱いで。」
それから・・・
心も身体も丸裸にされた俺は、長年抱いて来た恋心が実って
その夜ようやく一つになれて、つかの間ではあるけれど
本当の幸せを実感出来て、事が済んだ後には
また涙が溢れて止まらなくなった。
その次の日から智はスケジュール通りに実家のご両親の元へ行ったり
友人や知り合い、とりあえずお世話になった全ての人への
挨拶巡りが始まった。
描き掛けの俺の絵もギリギリまで仕上げると言って
時間が有れば筆を握って絵を描き続けた。
俺は事務所の上の人に智の治療法を説明して
今後の相談とかを真剣に話し合った。
「・・・それで、CRASHの解散の話は保留という形に
して貰えないかって、リーダーは言ってて・・・」
「仮にボイトレして戻って来れたとして、期間はどれくらいで
見込めるの?」
「んー、まだ正直そこまでは・・・やってみないと何とも言えないけど。」
「うん、まぁあまり長くは待てないけど、あくまでも休止って事でね。
あとは、大野君が何時戻っても大丈夫な様に、曲作りだけは
準備しといてね。」
「うん、それは勿論やりますよ。」
記憶がリセットされた後、智の人格こそが真っ新な状態になるわけで
俺が何処まで彼に元の大野智って人間を再生させるかに掛かってるって事だ。
そう考えると、とても重要な役割を担う訳で、圧し掛かるプレッシャーと言ったら
半端ないんだけど、それはもうやるしかないって事で既に覚悟は決めてる。
「それで、ちょっと纏まったお休みを頂きたいんですけど。」
「ええ?二宮君までお休み必要なの?」
「どうせ、当分ライブもレコーディングも出来ないんだから
レギュラー外して貰えれば済む事でしょ?
俺はとにかく暫くはリーダーに付きっ切りになると思うから。」
「うーん・・・だけどねぇ。」
「よければ、それ俺が代わりに引き継ごうか?」
「あ、潤くん・・・」
横で話を聞いていた潤くんが快く俺のレギュラー出演してた
仕事を継いでぐれると言ってくれた。
「助かるよ。」
「大野さんの話はビックリしたけど、本人がまだやりたいって
言ってくれてるのなら、それは皆でバックアップして
復帰出来るように協力するでしょ。
ニノが色々聞いてたら大変そうだけど、頑張ってね。
俺らに出来る事が有れば何でも応援するから。」
「ありがとう。」
そう。記憶が無くなるって、べつに死んじゃう訳じゃ無いんだ。
最初はまるで死んじゃうのと同じくらい目の前が真っ暗になった。
だけど、今は違う。
智自身もそうだけど、周りの皆が一丸となって良い方向へ向かって
前進しようと動き出してた。
実際はどんな状況が待ってるかは分からない。
だけど、俺は信じたい。
神様はそこまで意地悪じゃないんだって事を・・・
つづく