Destiny もう一つの未来 37

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もう一つの未来 37

 

 

 

覚悟はとっくに出来てる筈なのに、
なにも俺の目の前から居なくなるって事でもないのに
あと数時間すると俺の事も何もかも
全て分からなくなってしまうって考えると
やっぱりどうしても胸が苦しくなる。
これって、記憶が無くなる本人よりも
記憶がそのまま残ってしまう周りの人間の方が
よっぽどダメージがデカいんだよ。
この俺がしっかりしなきゃ。
智の再生は全部この俺に掛かってる。
もう一度愛し合いたいなら、記憶を丁寧に上書きしてくしか
それ以外に方法は無いんだ。

結局俺は前日の夜は色々考え事してたら一睡も出来なくて
とうとう当日の朝がやって来た。
智は朝食を済ませて身支度を終えると
キッチンで洗い物してる俺を最高の笑顔で呼んだ。

「ニノ、ちょっと来て!」

「あ、うん。待って、今行く!」

智はギリギリで描き上げた俺の肖像画をリビングの壁の
ど真ん中に飾ろうとしてた。

「ゴメン、ちょっとそっち持ってくれるか?」

「OK。そこに掛けるの?」

「うん。一番目立つとこな。」

「なんか恥ずかしいよ。」

「んふふ。いいじゃん。自分の絵なんだから。」

「だから恥ずかしいんだよ。」

それは、海を見つめてる俺の横顔だ。
凄く実物なんかより綺麗に描いてくれてる。

「どうだ?美人に描けてるだろ?」

「うん。凄いね・・・自分じゃないみたい。」

「ニノだよ。おいらの大切な。」

そう言って俺の肩を抱き寄せて、
記憶の有る智とこれが恐らく最後というキスを交わす。
ちょっと名残惜しそうに唇を離れると、
智は柔らかな表情で俺に微笑んで

「これ、おいらの覚え書きしてあるノートなんだけどさ、
 記憶が消えた後においらにニノから渡してくれる?
 多分何のことかすら覚えてないと思うけど、
 おいらの一番大事な物だからちゃんと隅々まで読めって、
 ニノから手渡して欲しいんだ。」

「あ、いいよ。」

「約束な。絶対だからね?」

「大丈夫だよ。俺の事信用してないの?」

「いや、信用してる。信用しかしてない。」

「俺、約束は守りますよ。必ず大野智を丸ごと再生しますから
 安心して。」

「うん。ニノ、今まで色々とありがとうな。」

「えっ・・・何言ってるの?そういう事言わないで。」

「いやいや、それはちゃんと言わせてくれ。
 記憶が有るうちに、それだけは言っときたかったんだ。」

「俺の方こそ、ありがとうだよ。」

「それじゃ、そろそろ行くか。
 病院で母ちゃん達も待ってるって言ってたし。」

「藍さんもだよね?」

「うん、病院には来るって言ってた。」

そして、俺達は田所先生の所へと向かった。
病院には智の家族と藍さんが既に到着してた。
当然だけど、おばさんも藍さんも泣いていて、
智が苦笑いしながら宥めてた。

治療はメスを使う手術では無くて、
頭にケーブルが複雑に配線されてる帽子みたいなヤツを被せられて、
ベッドで2時間ほど眠った状態で完全に記憶が消されるらしい。
入院とかも必要無くて日帰りでいいらしい。
それが済んだら脳波の検査とCT画像撮影だけ受けて
あとは家に帰宅できるという。

智がその施術を受けている間、俺達は先生から
この治療に関する詳細の説明を受けた。
この治療は副作用も後遺症も無く、ただ単に行動に関する記憶というのを
消去するというものらしく、言語や物に関する事柄は消えないらしい。
ただ、自分が誰なのかも分からない記憶喪失みたいな状態になる為
周りの人間の協力が必要不可欠になる。

「二宮さん?智は実家に連れて帰ろうかと思うんだけど。」

「えっ?いや、おばさん、リーダーから聞いてると思うんですけど
 リーダーは僕が面倒みますんで。」

「でも・・・それじゃ、二宮さんに迷惑が掛かるし。」

「僕は迷惑なんかじゃないです。リーダーと約束したんで
 約束は守らせて下さい。お願いします。」

「でもねぇ・・・あの子記憶が無くなるんだし
 こんな事言いたくないけど、約束も覚えてはいないのよ。
 二宮さんはまだお若いし、これから幾らでも色んな方との
 出会いもあると思うの。智だって、あなたには誰よりも
 幸せになって欲しいと願ってるはずよ。」

「そ、そんなこと言わないで下さい。僕はリーダーとじゃなきゃ
 幸せになんてなれないんです。
 リーダーも最後まで俺と一緒に暮らすことを望んでくれてました。
 おばさんのお気持ちは有難いけど、俺はリーダーとの約束を果たします。」

「本当にそれでいいの?あなた、辛くない?」

「例えこの腕がちぎれたって、俺はリーダーの手を離さないって
 決めたんで。辛くなんかありません。」

「二宮さん、ありがとう。そこまで言ってくれるなんて
 智は本当に幸せ者ね・・・。
 それじゃ、智はあなたにお任せします。
 でも、わたし達に出来る事は何でも協力するから
 これからは自分の実家だと思って甘えてくれて構わないから。」

「ありがとうございます。」

なんとかおばさんを説得し、検査が全て終わるまで
俺は待ち合い室で智の処置が終わるのを待った。

「大野さんの処置が無事に終わりました。」

田所先生が待合室の俺達にそう知らせに来てくれた。

「既に目が覚めていらっしゃいますから、ご家族の方から
 どうぞお入り下さい。」

記憶が消された智と初めての対面で、皆緊張した面持ちで
智の元に向かう。
それはまるで霊安室に遺体の身元確認にでも来てるみたいに
重苦しい空気だった。
数分もしないうちに、智の家族と藍さんが部屋から出て来て
皆ハンカチで目元を抑えて泣いてるのが分かった。
そりゃ、そうだよね・・・
そこに居るのは、もうあの皆が知ってる大野智じゃないんだもの。

俺も最後に大きくフゥーッと息を吐いて
智の元へと向かった。

つづく

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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