Destiny
もう一つの未来 43
「もしもし、ニノちゃん?あたしだけど・・・」
「藍さん?何?どうかしたの?」
「ちょっと話がしたいんだけど、今何処?」
「え?今仕事中なんだけど。それってさ・・・
もしかして智の事とか?」
「うん、そう。そんなとこ。」
「ゴメン、藍さん、俺はもう智とは・・・」
「・・・でしょうね。」
「えっ?」
「大筋はおおちゃんから聞いてるわ。
でも、心配しないで。無理矢理ニノちゃんを連れ戻そうとか
そういう話じゃないから・・・
仕事何時までかな?終わったらちょっとだけ会えない?」
「智も一緒なの?」
「一緒じゃ逢いたくない?」
「そういうわけじゃないけど・・・でも・・・」
「分かった。それじゃ二人で逢いましょう。
それなら文句ないでしょ?」
「う、うん。」
藍は和と約束を交わして電話を切った。
「はい、予定変更!」
「えっ?」
「おおちゃんは自宅待機ね。」
「で、でも・・・」
「大丈夫。あたしに任せなさい。悪いようにはしないから。
ただし、これだけは覚えてて。」
「え・・・」
「あたしがしゃしゃり出るのはこれが最後だから。」
「ええっ?ど、どうして?」
「実はあたし、恋人が出来たの。
もう、おおちゃん達に何時までも付き合ってられないもの。
あ、一つだけ聞いてもいいかな?」
「な、何?」
「おおちゃんは、ニノちゃんの事どう思ってる?」
「どうって・・・」
「戻ってきて欲しい?それとも、もうこのまま終わりにしていい?」
「そ、そりゃ戻ってきて欲しいよ。」
「それはどうして?」
「どうしてって・・・記憶がリセットされる前まで
俺達付き合ってたんでしょ?人が恋愛して付き合うって
一人じゃ成立しないことじゃん。」
「うん、だから?」
「だから・・・一緒に居なきゃ駄目だと思う。」
「それだけ?」
「そ、それだけじゃ駄目?」
「駄目に決まってるじゃない。」
「ええっ?分かんないよ。何て言えばいいの?」
「おおちゃんは記憶無くなってからもう半年以上になるよね?
ということは、ニノちゃんとの生活も半年以上も経つけど
そこでおおちゃんはニノちゃんに対して恋愛感情とか
芽生えなかったの?あたしはそういう事を聞いてるの。」
「恋愛感情?」
「そう・・・好きだとか、チューしたいとか
一緒に寝たいとか・・・思わなかったの?」
「そ、それは・・・」
「ハッキリ言いなさいよ。ここは正直に・・・」
「思ったよ///]
「思ったんだ?」
「うん・・・」
「それが聞けて良かった。
おおちゃんはやっぱりおおちゃんなんだ。」
「えっ?」
「ニノちゃんはさ、おおちゃんが自分の事を好きになる様に
努力とか無理はして欲しくなかったのよ。
時間がどんなに掛かってもいいから、あくまでも
ごく自然に関係を築けたら良いって思ってたはずよ。
だけど半年以上はさすがに長すぎた・・・
そこへとどめ刺すみたいに女を連れて来るものだから
そりゃ気持ちも萎えるわよ。
ずっと耐えて、我慢してきたのは何の為?って思わないわけが
ないもの。あたしはニノちゃんの気持ち痛い程分かるな。」
「謝らなきゃ・・・」
「そうね。そして、あたしに言ったこと、
ちゃんとニノちゃんに自分で伝えなきゃ駄目だよ。
言わなければ伝わらないんだよ。
特に好きだとか、愛してるって言葉はね・・・」
「う、うん。」
「あたしに言われたからじゃないよね?」
「も、もちろん。」
「本当だよね?」
「嘘じゃないよ。」
「じゃ、あとはシッカリやってよね。
あたしはこれからニノちゃんに会って来るから。
ニノちゃんが戻ってきても、ちゃんと伝えなければ
また出てっちゃうかもしれないんだからね。」
「分かってるよ・・・」
「フフッ、そんな不安そうな顔しなさんなって。
あたしが必ずニノちゃんを連れ戻してあげるから。
今夜はベッドに枕並べて待ってなさいな。」
藍はそう言って和との待ち合わせの場所へと向かった。
俺はリビングで覚え書き帖を取り出して改めてそれを開いて読んだ。
その中に1頁だけ、俺が俺に宛てたメッセージが認められている。
一度は流す程度に読んでいたけど、急に気になって
再びそこを読んでみたくなった。
記憶が消えた今のおいらへ。
生きてるか?幸せに暮らしてるか?
行き詰まる事もあるだろう。
そりゃ人間なんだからな。
でも、行き詰まったらニノと二人で海に行け。
リビングに飾ってるニノの絵・・・
これはおいらが最後に描いたんだけど
一番のお気に入りなんだ。
ニノが俺の隣で海を見つめてる横顔。
綺麗だろ?
おいらがニノを一生守ってやらなきゃって思ったのが
この海なんだ。
だから、覚えてなくても良いから
行き詰まったらニノと二人でこの海に行くといい。
きっと、あの時のおいらの気持ちが
蘇ってくるはずだから・・・
つづく