Destiny もう一つの未来 44

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もう一つの未来 44

 

 

 


それから藍さんは俺に会いにやって来た。
自宅マンションからほど近い駅前のカフェで待ち合わせした。

「ゴメンね。待った?」

「ううん、俺も今来たとこ。」

「ニノちゃん、なんか少し痩せた?」

「そう?ま、確かにこの頃あんまり食ってないし・・・」

「ハァ・・・二人とも意地っ張りだよねー。」

「ええっ?」

「本当は戻りたいくせに・・・」

「そ、そんなんじゃないよ。聞いてるんでしょ?智から・・・」

「聞いてるよ。全部ね。」

「だったら、分かるでしょ?どうしてこうなってるのか。」

「そうね・・・おおちゃんの人格は何も変わってなかった事と
 ニノちゃんが今でもおおちゃんのこと心配してるってことは
 分かるわよ。」

「あの人が何て言ったか知らないけど、俺はもう戻る気ないから。」

「どうして?」

「俺、気付いちゃったんだよね。あの人はもう俺が知ってる
 大野智じゃないんだ。あの人からしてみれば、記憶の上書きなんて
 きっと有難迷惑な話なんだよ。生まれ変わって新しい人生が
 待ってると思ったら、初めから俺なんかがくっ付いててさ・・・
 好きな事して良いって言われても、本当は自由になんか
 させて貰えないわけでしょ?俺と居たら・・・」

「そんなの当たり前でしょ?」

「当たり前?そうかな?俺はそうは思わないけど。」

「おおちゃんはニノちゃんとこの先の未来をどうしても
 一緒に生きていきたかった、それが何よりの目的だった。
 記憶の上書きを頼んだのもおおちゃん本人だよね。
 何かさっきから聞いてると全部ニノちゃんが決めてやってる事
 みたいに聞こえるけど、そうじゃないでしょ。
 あくまでも大野智の再生はおおちゃん自信の希望のはず。」

「確かにそうだけど、今のあの人には記憶が無いんだから
 自分が言った事なんて覚えてもいないだろうし・・・」

「そこはさ、二人の信頼関係しかないわよ。
 周りがどうこう言う話じゃない・・・」

「記憶が消えたあの日からおよそ8か月だよね・・・
 俺は時間掛けて関係を築こうと思ってた。
 だけど、あの人は日が経つにつれ俺以外のことにばかり
 興味を示すようになったんだ。挙句の果てに、
 俺はあの人の友達とかに弟と紹介される始末なわけよ。
 俺が居る事で、彼女作りたくても作れないってのもあるだろうし・・・
 これって俺は完全に邪魔な存在になってる証拠でしょ?」

「ニノちゃん?本気でそんな事思ってるの?」

「もう、イイのよ。
 俺は大野智は死んだって思う事にするって決めたんだ。」

「ニノちゃんの気持ち、分からないでもないよ。
 でもね・・・おおちゃんは死んでなんかいない。
 ちゃんと生きてる。それに、さっきも言ったけど
 おおちゃんは確かに記憶は何一つ残ってないけど
 人格そのものは何も変わっちゃいないのよ。
 それって、子供の頃から見てるあたしが言うんだから
 間違いないわよ。
 誰にでも優しくて、ちょっと鈍感で頑固だけど
 ほんわかしたマイペースなところとか・・・
 頭にくるくらいおおちゃんじゃない。
 さすがにあれから手も握ってないって聞いて
 あたしもそれにはビックリしたけどさ、
 それはニノちゃんがおおちゃんにとって特別大切な存在なんだって
 本人も十分過ぎるくらい分かってるから
 慎重になり過ぎたってだけなんだと思うよ。
 本当は・・・本質は何も昔と変わってないよ。」

「えっ・・・」

「おおちゃんが連れてきた女の子、本当に何にも無いらしいわよ。
 彼女に弟と説明したのはね、女の子が普通に二人の関係を説明したことろで
 同性愛をすんなり理解して貰えると思わなかったからなんだって。」

「う、嘘?」

「嘘じゃないわよ。これは本人が言ってたんだもの。」

「だ、だけど・・・俺・・・」

「こうまで言っても戻りたくない?
 ニノちゃんの事、あたしは信頼してたのになぁ。
 ちょっと見損なっちゃったかな・・・」

「藍さん・・・」

「そっかぁ。もう決心固いのね?
 それじゃ、ニノちゃんがリタイアするんなら
 あたしがおおちゃんの傍で面倒みようかなぁ。
 ね?いいでしょ?」

「そ、それは・・・」

「だっておおちゃん、ニノちゃんが出てってから
 不眠症続いちゃってるらしくてね、田所先生のところに
 お薬貰いに行ったらしいのよ。
 だけど、おおちゃんはまだ一人でお薬の管理は危険だから
 前みたいに無意識に大量の薬飲んで救急搬送とかなったら
 それこそ大変じゃない。
 今夜から早速あたしが一緒に暮らすしかないかな。」

「智が?睡眠薬・・・飲んでるの?」

「飲まないと1週間以上眠れてないらしいよ・・・」

「お、俺・・・やっぱり戻ります!」

「ええっ?だってニノちゃん、もう智には会わないんじゃないの?」

「じ、事情が変わったんで。なんかゴメン、藍さん。
 その話、本当ですよね?」

「え?どの話?」

「女の子の話、それから薬の話・・・」

「どっちも本当だけど。」

「うん、俺これから戻ります。教えてくれてありがとう。」

「ちょっと、えええっ?」

藍さんの話を聞いた俺は、自分の勝手な思い込みだったと
気付かされた。藍さんに言われなきゃ分からないなんて
ほんっと情けないったらありゃしない。
智は藍さんが言う通り、人格は何も変わっていなかったんだ。

俺が慌てて店を飛び出した後、藍さんが両手で口元覆って
うまくいったとばかりに笑ってた事は、勿論俺は知りもしなかったけど。

つづく

 
 

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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