Destiny もう一つの未来 49

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Destiny

もう一つの未来 49

 

 

 

「和へ  俺は知らない土地に住んで絵の創作活動に専念しようと思う。急に居なくなるけど心配しなくても大丈夫だから。俺の一方的な我儘だということは分かってる。だけど今までこんな俺を支えてくれて有難う。これからはお互いに自由な道を歩いて行こう。携帯は置いてくから、どうか俺の事は探さないで欲しい。和の活躍を遠くから見守ってるよ。   智より」

疲れて仕事から帰って来たら、この置手紙と智が使ってたスマホが
テーブルの上に置かれてあった。

「智・・・」

俺は暫く放心状態でそのまま床の上に膝から崩れ落ちた。
そして、何処に当たりようもないこの感情をぶつける様に
床を拳で何度も叩き付けながら泣いた。
涙は滝のように流れるっていうのに、
どうしてか苦し過ぎて声が出ない。
人は本当に辛い時、こうやって泣くんだなって改めて気付いた。

手紙の文面から、智が苦悩の日々を送ってたんだって事が
ひしひしと伝わって来る。
記憶が消えた事への苦しみは一緒に居る事で
何とか乗り越えられると思ってた。
だけど今回は普通のカップルになら何処にでも有り得る
いわゆるすれ違いから起きる心のズレとでもいうか・・・
もう、こうなっちゃうとどうにも手を付けらんないんだ。
幾ら俺が言い訳しても、たとえ無限に謝ったところで
何も解決しないのは分かってる。

正直なところ、俺も疲れて来てた。
スマホも置いてってる以上、連絡のしようがないし
捜索願いを出して世間を騒がせる訳にもいかない。
まぁ、それでも智にもしものことが有ったらマズいから
探すなとは言われても、俺は翌日には智の実家を訪ねた。

「おばさん、ご無沙汰しています。あの・・・リーダーから
 何か聞いてますか?」

「二宮くん・・・」

おばさんの表情を見て、俺は一瞬で何かを知ってるって悟った。

「まぁ、立ち話もなんだから上がって。」

「はい、それじゃちょっとだけお邪魔します。」

おばさんは静かに淹れてくれたコーヒーを俺の目の前に置いた。

「あなたがここに来ることは智も想定内だった事だから
 私に色々と説明してから出て行ったのよ。」

「やっぱり、そうでしたか・・・あ、あの・・・」

「悪いけど、連絡先だけは教えられないわ。
 あの子に固く口止めされてるから。」

「そうですか・・・」

「私も智も二宮君には本当に感謝してるの。
 これだけは信じてね。」

「あ・・・はい・・・」

「なんかね、最近ちょっとメンタルやられそうになってたみたい。
 それはあなたも見ていて分かったでしょ?」

「僕のせいです。」

「ううん、それは違うわ。だって、あの子以上にあなただって
 相当大変だったはずよ。それはお互い様なの。
 自分を責める事は何もないのよ。」

「で、でも、リーダーの精神状態をもっと僕が分かってあげていれば
 こんなことにはなってなかったかも・・・」

「そうやってあなたが智の人生を何もかも背負って生きて行こうとすることで
 逆にあの子にはプレッシャーに感じて辛かったんだと思うの。」

「プレッシャー・・・?」

「どういう言い方が正しいか私にもよく分からないんだけど
 あの子は一度それぞれが自由になって、お互いの、自分の人生を
 ゆっくりと見つめ直したいんだって、そう言ってたわ。」

「おばさんは、リーダーの行き先をご存知なんですね?」

「ええ。勿論・・・」

「連絡もおばさんとなら取れるんですよね?」

「ええ。」

「そうですか。それを聞いて安心しました。
 ずっと一緒に居る事で、この先どんな壁も乗り越えていけるって
 僕はずっとそういうふうに思ってました。
 だけど、それは僕の勝手な思い込みに過ぎなかった。
 僕は今でもあの人の事が好きです。
 でも・・・僕が一緒に居る事で、結果あの人のことを
 傷付けたり苦しめるのであれば、それは僕が望んでる事では
 無いですから・・・リーダーが僕と居ない人生を歩んでみたいと
 思ってるのであれば、もうこれ以上あの人を縛り付ける権利は
 僕には有りませんから・・・」

「はぁ・・・ホントに許してあげてね。
 あの子はあの子で色々悩んで下した決断だったみたいだから。」

「いいんです。智は、リーダーは何も悪くないから。
 自分の事を重荷だと思わせた僕の方がいけないんです。
 あ、これ・・・リーダーから記憶リセットされる前に
 預かってた通帳です。一人で暮らすのにこれから
 お金は必要だと思うんで、これはおばさんから渡してあげて下さい。
 それから、マンションの鍵です・・・これもお返ししときます。」

「あ、そのお金はこれまでお世話になったせめてもの御礼だから
 二宮くんが取っておいて。」

「いえ・・・。僕にはリーダーがくれた思い出だけで十分です。
 力不足でこんな結果になったこと、許して下さい。」

「何言ってるの。本当にあなたは何も悪くないんだからね?」

「今まで、ありがとうございました。
 もし、リーダーと今後会われる事があれば
 僕は幸せだった・・・って、伝えて貰えますか?」

おばさんは、目に涙をいっぱい溜めて
何度も「ゴメンね」と謝りながら大きく頷いた。

泣いて叫んでどうにかなるものなら
俺は人前だろうと何だろうと泣けるけど、
どうにもならない事ならもうこれ以上は泣かないと決めた。
智が居ない人生って、まだ俺には現実として
確かなビジョンは何も見えて来ないけど、
このまま立ち止まるわけには行かない。
だって、これが俺達の運命であり、人生なんだ。

俺に出来る事は、ただ一つだけだ。
智が誰よりも幸せに、笑って生きていく事を願うだけ。

つづく

長く読んで頂き有難うございます。
次回はいよいよ最終話となります。

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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