Destiny もう一つの未来 最終話

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Destiny

もう一つの未来 最終話

 

 

 

 

それからおよそ1年後、智とはあれっきりで何処で何をしてるのかも俺は知らずにいた。
勿論、智の事を考えない日なんて一日もなかったけど、もうわざわざ無理に探して連れ戻そうという気は正直全然起きなかった。

智が失踪した事については、1か月程経ってから俺が事務所やメンバーにも事情を説明した。
CRASHは、公式上では今でも休止という形のまま存続はしていたけど、再始動の目途は全く立ってなかった。
俺や他のメンバーは、半ば再始動は視野に入れずに個々の活動に力を注いでた。それは何時解散となっても仕事に困らない様になんだけど、俺自身はそろそろ芸能活動を引退したいと考えていた。

そんな時、俺に音楽雑誌の記念創刊号の巻頭ページに掲載するグラビアインタビューのオファーが入った。
そこでCRASHの今後について聞かれるのは分かってるけど、こういうのが実は一番困るわけで
ファンの人に期待持たせるような発言は避けなきゃなんないし、やる気のない発言も上から禁止されてる。

「二宮さん、今日は宜しくお願いします。」

「あ、どうも。お久し振りです。宜しくお願いします。」

「先にグラビア撮っちゃいますんで、あちらで着替えてヘアメイクをお願い出来ますか。」

「はい、わかりました・・・」

控室に用意された高そうなブランドの洋服に着替えて
メイク室で鏡の前に腰掛けると、プロのヘアメイクの人が
せっせと俺の頭を弄り出した。

「二宮さんはホントお肌綺麗ですよねぇ。」

声がガサガサだった。
もしかすると、この人オネエ・・・?
まあ、ヘアメイク担当してる人ってこの業界でオネエは珍しいことじゃないけど。
ちょっと、雰囲気があの藍さんに似てるって思って、なんとなく懐かしかったりした。

「二宮さん?私の事覚えてます?」

そう言いながら鏡越しに俺の目を見てニッコリと微笑む。

「え?どっかでお会いしたことありますっけ?」

「一度だけ会った事有るんだけど。ほら、六本木のニューハーフのお店。
何時だったか、おおちゃんと二人でいらしてたじゃないですか。」

「ええっ?それって、もしかして藍さんの勤めてた?」

「正解。やよいちゃんです。」

「えっ?あっ、ああーっ!」

そっか。どっかで見た事あると思ったら、やっぱりそうだよ。

「フフフッ、驚くわよねぇ。こんな所で会うとは思わないもの。」

「へえ・・・ヘアメイクとかもやってたんだ?」

「あ、もうお店はとっくに辞めちゃったけどね。」

「そ、そうなんだ。あ、そうそう、藍さんは元気にしてるのかな?」

「藍ちゃんも1年前に仕事辞めちゃったんだよ?知らなかった?」

「そうなの?俺ももう1年近く会ってないから。」

「藍ちゃんね、彼氏出来たとか言ってた。
これは噂だけど、その彼氏ってどうもおおちゃんじゃないかって
店の女の子達の噂なのよねぇ。女の子っていうかオカマだけど(笑)
彼氏が病気で今仕事が出来ないとか言ってたから、
絶対おおちゃんのことだと思うんだけど
二宮くんも何か知ってるかと思ってた。」

「ぜ、全然知らなかった。」

「藍ちゃんはお店でも人気ナンバーワンでお客からもモテモテだったけど
あたしにはおおちゃんが居るからっていっつも周りを突っ撥ねてたからね。」

「そ、そうなんだね・・・」

「え?どうしたの?何か私いけないこと言った?」

「えっ?あ、ううん。そんなことないよ。」

そっか・・・そうだよね。
智が家を飛び出しても、行くとこ思い付くとしたら
せいぜい実家か藍さんのとこくらいだもんね。
驚いたのは驚いたけど、藍さんが一緒に居てくれてると聞いたら
なんかちょっとだけホッとしてる自分がいた。
だって、知らない人と結婚したとか、一緒に住んでるって
風の便りで聴かされるよりも全然マシだと思うし
藍さんなら安心だもの。

そんな事があって、ひと月程経ったある日の事、
俺は芸能活動の引退の申し出をする為に事務所を訪れていた。

「あら?二宮くんどうしたの?」

「あ、あの、社長は?」

「社長?あー、何か今からお客さん来るみたい。
応接室に居るけど、急ぎ?」

「え?あ、いいや。そこまで急がないけど・・・」

「丁度良かったわ。待ってる間暇でしょ?」

「えっ?う、うん・・・」

「ちょっと人手が足んなくて。手伝って欲しいんだけど・・・」

「あ、うん・・・いいけど。」

俺は事務員のNさんに手伝いを頼まれて、衣裳部屋に連れて来られた。

「ここからこれと同じTシャツを探して欲しいのよ。」

「えええっ?ここから?」

めちゃくちゃ段ボールが積み重なって、何が何処にあるのか
さっぱり分かんない状態の衣裳部屋で、しかも俺一人で
1枚のTシャツ探せって、絶対無理だよ・・・
探す前からテンションが駄々下がる俺。

「バイトが急に休んじゃってね、困ってたんだ。二宮くん助かるよ。
社長のお客さんが帰ったら直ぐに教えてあげるから・・・お願いします。」

「ええーっ、マジかよぉ・・・」

「お手伝いしたら何かイイこと有るかもよー(笑)」

「何だよ、それ・・・」

嫌とも言えない俺は、ちょっとふて腐れた態度で1個ずつ段ボールを開いて渡されたのと同じTシャツを探し始めた。
段ボール5個目を開けて、これが無限な作業になるって事に気が付いた。
時間にして30分位探してたら、衣裳部屋の扉が開く音がした。
俺はてっきりNさんが俺を呼びに来たと思って

「もうお客さん帰ったの?ねえ、これさ絶対見つかんないって・・・」

って背中向けたまま話し掛けるけど、何にも返事しないから
後ろを振り返ろうとしたら、いきなりフワッと誰かに背中から抱き締められた。
そして次の瞬間、耳元で聞き覚えのある懐かしい声がした。

「ただいま・・・和・・・」

「えっ・・・」

それは間違いなく智だった。あんまりビックリして心臓が止まりそうになった。

「な、何で?」

俺は慌てて振り返ろうとするけど、智は抱き締めた腕を解こうとはしなかった。

「社長に復帰したいってお願いしに来たら、和がここに居るって聞いて・・・」

「は、離して!あなたには藍さんがいるでしょ?」

「藍?藍は彼氏と一緒に暮らしてるよ。」

「え?うそ?彼氏ってあなたでしょ?」

「違うよ。藍にはちゃんと彼氏が出来たんだ。」

「う、うそ?それに・・・復帰って何よ?」

「CRASHのボーカルの復帰に決まってるじゃん。」

「何なの?勝手に人の前から居なくなって・・・人が引退しようと思ってたのに
自分だけ復帰って・・・」

「怒ってるよね?ゴメン・・・」

「怒るよ。怒るに決まってるでしょ。」

「ゴメン・・・どうしたら許してくれる?
 どうしたらまた俺と付き合ってくれる?」

「そんな・・・簡単に許せると思う?俺がどれだけ泣いたか知ってる?
 そうですね・・・罰として、一緒に・・・このTシャツ探してくれるんだったら
 許してやってもいいよ。」

俺はニヤリと口の端を吊り上げて笑うと
智の腕を振り解いて彼の方へ向き直り、自分の方から口付けた。

「二宮くーん、あっ!!!し、失礼しましたっ!」

完全にNさんに俺達のキスシーン見られたけど
もう、そういうのもどうでも良かった。

それから2か月後、CRASHは新曲発表と同時に智の復帰の会見を開いた。

THE END

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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