Destiny
もう一つの未来 6
俺達の曲作りは、基本俺が作詞作曲をしてそれを翔さんがアレンジしてくれる。
時々は翔さんも作詞作曲をするけど、それでも8割は俺が担当してた。
俺が智に特別な感情を抱くようになったのは
知り合って直ぐの事だったけど、男が男を意識するなんて
最初は自分でも信じられなかったし、やっぱりどうしても恥ずかしくて
本人には勿論だけど他の誰にも打ち明けられずにずっといた。
仮に打ち明けて嫌われでもしたら、あの人の事だもの・・・
バンド即行辞めるとか言い出し兼ねない。
俺はずっと傍に居れるだけで十分なんだって
それ以上を望まない様に、そっと自分の胸の中にしまう事で
万事うまくいくってそう自分に言い聞かせてた。
それに、智に歌わせる楽曲を俺自身が作ることが出来るなんて
こんなハッピーな事はないって思ってたし・・・
いまだかつて誰にも話したことはないけど
俺が描いた楽曲は、全て俺の智への想いが込められてる。
例えば「I Love You」だったり「愛してる・・・」
という台詞を入れると、智は凄く照れて俺に描き直してと
抗議するんだけど、それはこっちも俺に対してのワードだと妄想して
描いてるわけだから、どんなに抗議されたところで却下してた。
これっていわゆる役得ってヤツかな。
だけど、一度だけ智にピンポイントで的を突かれた事があって
それはアルバム曲の中の「振り向いて」というタイトルの楽曲だったんだけど
俺の気持ちに気付いて欲しいというニュアンスをふんだんに盛り込んだ
俺が比較的調子がいい時に描いたテンポが良い曲で、
出来立ての譜面を初めてメンバーに手渡した時に
それに目を通した智の口から真っ先に飛び出した言葉に
俺は勝手にドキッとしたのを覚えてる。
「・・・なんかさ、これってニノが言ってるみたいに感じる。」
「えっ?」
「ううん・・・何でもない。」
無造作に首を触りながら、デレデレした感じでニヤける顔を
俺に悟られない様にしてるのを俺は一瞬でも見逃さなかった。
この時、もしかするとこの人も俺のこと?って
ちょっとだけ思ったりもしたんだけど、それも見て見ぬふりをしてた。
そんな感じで俺と智の想いは口には出さなかったけど
いつの間にか自然に通じてはいた。
そして、「CRASH」の人気が上がるにつれ、
どんどん俺達にバンド以外の仕事のオファーが増え始めた。
CM出演や雑誌インタビューはまだ良いけど、
バラエティ番組とか歌以外でもテレビに出る事が増えて
まるでこれじゃアイドルタレントと変わらない。
ただでさえ人前に出るのが苦手だと言ってた智は
次第に元気が無くなり、遂には軽い鬱状態になってしまった。
勿論、憂鬱になったのは智だけじゃない。
そもそも俺達がやりたかった事はこんな仕事じゃなかったはず。
確かにメンバーそれぞれが悩み始めていたのも
この10周年を過ぎた時期からだった。
久々新曲の練習の為にスタジオに集まった時、
潤が真面目な顔で皆に大事な話が有ると切り出した。
「あのさ、CRASHは本当に今のままでいいのかな?」
「えっ?」
「俺らって、こんなアイドルタレントみたいになりたくて
この世界に入った訳じゃ無いよね?
皆はどう考えてるか分からないけど、この先どうするつもり?」
「ど、どうするって・・・」
翔さんが急にそんな事を言われても困るといわんばかりの表情で
言葉を詰まらせた。
「潤はどうしたいの?」
「俺は次は世界だと思ってる。」
「ええっ?世界・・・?」
「ワールドツアーだよ。」
「い、いやぁ・・・気持ちは分かるよ。でも世界では・・・
流石に無理だろう?」
「意外と日本の文化は今世界でも注目されてるんだよ。
昔とは違ってインターネットも普及してるし、俺らが思ってる以上に
海外だって需要は幾らでもあると思う。」
「だけど、ワールドツアーとか事務所に言っても
真面目に打ち合ってくれないんじゃない?」
「勿論、上には俺から説得する。」
「ほ、本気なの?」
「本気だよ。それとも皆は現状に満足してるの?
俺達はバンドマンでしょ?アイドルタレントじゃないんだよ。
リーダーなんて体操のお兄さんの仕事まで来てんだよ?
もう日本でバンド活動なんて終わってるのと一緒だよね?」
「悪りぃけど、おいらは無理。世界なんか行くのなら
おいらは降りる・・・」
今まで黙って聞いてた智が突然その場を立ち上がって
力なくボソリとそう呟くと、そのままスタジオを出て行ってしまった。
「ちょ、リーダー?待って!」
俺は慌ててリーダーの後を追い掛けた。
つづく