Destiny
もう一つの未来 8
この大雨の中、ずぶ濡れになった俺と智は
なんかちょっと変な展開になってきた。
寒いと俺が言うと、平然と俺を抱き締めたり
自宅マンションに連れて帰ろうとしてる。
もう10年以上も俺達一緒にやってきたけど、これまでに
一度も自宅なんかに誘われたことが無かったから
ちょっとこの時ばかりは流石に俺も戸惑った。
「えっ・・・あっでもほら、俺慌ててあなたのこと追い掛けてきちゃったから
携帯とか荷物、全部スタジオに置いてきちゃったしさ・・・」
「そう?それじゃ、ニノはスタジオに戻れば。」
「ええっ?」
「じゃ、風邪ひくなよ。またな・・・」
「あっ、待って!行くよ。一緒に行きますって!」
「何だよ?無理して付き合う事ないんだぞ。戻りたいんだろ?」
「だったらあなたも一緒に戻りましょうよ」
「悪りいけど、おいらは風邪ひきたくないから。」
「何だよ、それ?俺だって・・・」
「なら黙ってついて来いよ。」
「え・・・あ、うん・・・」
スタジオに残ってる三人、きっと心配してるよな。
マジで慌てて飛び出して来たから、携帯も持ってないし
連絡のしようがない。
さっきより少し小降りになった雨の中を、とりあえず智に着いて歩き出した。
「ああっ!!」
「な、何だよ?」
俺が何か思い出したかのように大きい声を出したから、智は驚いた様子で
俺の方を振り返った。
「リーダー、携帯は?」
「え?持ってるけど・・・」
おかしいな・・・皆心配してないわけがないのに
どうして智の携帯はさっきから一つも鳴らないんだろう?
「携帯、着信入ってないの?皆から・・・」
「ああ~、おいら普段はサイレントにしてるから・・・」
そう言ってポケットから携帯を出して着信を確認した。
「めっちゃ掛かって来てる。」
「やっぱりな・・・ね、とりあえず連絡入れときましょうよ。」
「どーして?」
「どうしてって、そんなの大人の常識でしょ?早く誰にでもいいから電話してよ。」
「いいよ・・・」
「良くないよ。」
「だったら、お前が掛けろよ。」
智は俺に自分の携帯を差し出した。
「もう、仕方ない人だな・・・」
俺はその携帯を受け取ると、着信履歴から雅紀の携帯に電話を入れた。
「あっ、もしもし?俺だけど・・・うん、リーダーも一緒。
大丈夫だけど、途中雨に遭って二人ともずぶ濡れなの。
それでさ、リーダーの家で着替えさせてくれるっていうから
二人にも心配しない様に伝えてくれるかな?・・・うん。宜しくね。」
俺は電話を切ると、智に携帯を返して再び歩き始めた。
「え?まさか歩いて帰る気じゃないよね?」
「まさか。でもこのずぶ濡れじゃタクシーは無理だな。」
「じゃ、どうするの?」
そう聞いてみたら、智はポケットから一度仕舞った携帯を再び取り出し
突然誰かに電話を掛け始めた。
「あ、もしもし・・・俺だけど。今忙しい?
ちょっと悪いんだけど迎えに来てくんないか?
あ、場所は・・・」
電話の相手は誰なのか全く分からないけど、親しい雰囲気で話してるから
お母さんとかだろうか?
「誰か迎え来てくれるの?」
「ああ・・・さっきの公園戻ろう。隣にコインパーキング有るから
そこまで来てくれるって。」
「へえ・・・誰?お母さんとか?」
「いいや。」
「それじゃ誰?友達とかですか?」
「いいじゃん、誰だって・・・」
「そ、そりゃそうですけど。」
何だよ。誰が来るのか教えてくれたっていいのに・・・
教えたがらないと余計に気になるじゃんか。
まさか恋人とかじゃないよね?
え・・・そ、そうなの?
頭の中で勝手に想像してめちゃくちゃ不安になる俺。
そしてさっきの公園に戻って15分位待ってたら
リーダの携帯に着信が入り、お迎えが到着した事が伝えられた。
「着いたらしい。行こうか。」
「う、うん・・・」
不安を抱えたまま、待ち合わせのコインパーキングの場所へと向かった。
数台の車が停めてあって、どの車だろうと目を細めて確認していたら
中でも超高級車の運転席側の扉が開き、そこから降りてきた一人の女性が
俺達の方に向かって手を振った。
「おうっ、悪りぃな・・・」
最初、ファンの人かな?と思ったが、智がそう言って
その女性に近付いたから電話の相手だと確信した。
だけどその女性があまりにも智と不釣り合いと思えるような
ド派手な容姿に目を疑い、あまりのショックに俺は言葉を失ってしまった。
つづく