Destiny
もう一つの未来 9
「おおちゃん、お待たせぇー。」
「おせぇよ!」
「だってすんごい信号引っ掛かっちゃったんだもん。
やだぁ、ずぶ濡れじゃん。」
「いいから早く家まで送ってくれ。」
な、なんなんだ?この人・・・
何処からどう見てもキャバクラのお姉ちゃんなんだけど・・・
「わっ、この子ギターの子だよね?」
「あっ、どうも二宮です。」
「やだあ、めっちゃ可愛い。」
「もう、そういうのはイイからさっさと送れよ。ニノ、後ろ乗って。」
「えっ、あ、うん・・・」
え?どういう関係なの?
聞きたいけど、怖くて聞けないよ。
俺は言われるままその車の後部座席に乗り込んだ。
智は助手席に当たり前の様に座った。
「じゃ、行きまーす。」
カーオーディオからは当然の様にうちらのバンドのアルバムの曲が流れる。
「やだ、二宮君ってホント可愛い・・・」
「おいっ、ちゃんと前向いて運転しろよ!」
「やだぁ、おおちゃんったら妬いてるの?」
「バカじゃねえか?」
「だっておおちゃんってば全然藍のこと抱いてくんないじゃん!」
「だっ、抱いて・・・って・・・」
俺はその会話に思わず声を上げてしまった。
「バカか!」
「何よ?本当の事言って何が悪いの?」
「あ、あの・・・お二人はどういう関係なの?」
流石に俺は堪らず質問を投げ掛けた。
「ええ?それ聞くぅ?」
「おいらはオカマは抱かねえって言ってるだろが。」
「お、オカマ?」
「藍は六本木のオカマバーのホステスなんだ。」
「オカマオカマって、ちゃんと工事は終了してるんだからね。
失礼しちゃうわ。」
なんだ・・・この人ニューハーフなんだ。
ビックリした。どうりでハスキーボイスだと思った。
本当に智の彼女だったらどうしようって思った。
「リーダーって、そういうお店に通ってるの?」
「最近は全然来てくれないのよねぇ。売れっ子になっちゃったから
オカマには用無しなんだって。酷い男よね。」
「うるせえよ。」
「ねえ?今度何時デートしてくれるの?」
「さぁ・・・」
「金曜日は?金曜日は藍お店休めるよ。」
「先の事は分かんねえ。前の日の晩に電話しろ。」
「ホント?嬉しいっ!」
デ、デートの約束までするの?
ってことは、やっぱり普通の関係じゃないじゃん。
「はい、到着。いいなぁ、ニノちゃんはおおちゃんちに入れて貰えるんだ?」
「えっ?」
「藍はまだ一度も入れて貰ったこと無いのに。」
「もういいから、お前は帰れ。」
「おおちゃん、御礼はチューでいいよ。」
「バカかっ!いいから帰れ。」
「こわっ。それじゃ金曜日、約束だからね!ちゃんと電話出てよ?」
「ああ・・・」
智が六本木のオカマバーに通ってた事、そしてこの藍というホステスと
親密な関係だってこと・・・
もう色々衝撃過ぎて頭が回らなかった。
俺達は車から降りて智のマンションのエレベーターに乗り込んだ。
「他のメンバーには内緒な・・・」
「えっ?」
「藍の事だよ。」
「あ、う、うん。」
内緒にしたいってことは、やっぱりガチで付き合ってるのか?
だとしたら、俺はオカマに負けたって事?
すげえショック。
「あ、あのさ・・・」
「えっ?」
「す、好きなの?」
「はっ?」
「今の藍って人・・・」
エレベーターの扉が開き、智の部屋のフロアに着いた。
俺がそう聞いてみたら、智はちょっと呆れた顔で俺の事を見た。
「バカな事言ってないでさっさとシャワー浴びねえと風邪ひくぞ。」
そう言って玄関の扉を開けた。
つづく