恋愛小説
黄色い泪③
俺と松本くんと二人で学校の直ぐ傍のラーメン店に来ていた。
「約束通り奢るから、好きなの頼んでいいよ。」
「ホント?それじゃ遠慮なく・・・チャーシュー麺にしようかな。」
「それじゃチャーシュー麺二つ。」
店員にそう告げて俺達はテーブルに向かい合わせに座った。
「大野先輩と知り合いだったの?」
「え?・・・ううん。知り合いとかじゃないよ。」
「随分親しそうだったから。」
「そ、そうかな・・・」
「3年はこのコンクールが終わったら、とりあえず引退なんだよ。」
「あー、そうかぁ。そうだよね。体育系でいうところのインターハイみたいなものだものね。」
「二宮くん・・・あ、何か君付けで呼ぶの堅苦しいね。今まで俺達接点が何もなかったからあんまり話したことなかったけど、これからはあだ名で呼んでもいい?」
「ああ・・・ニノでいいよ。松本くんは?」
「俺は潤でいいかな。」
「それじゃ潤くん、今日は誘ってくれてありがとね。すんごく面白かったよ。」
「なんかゴメンね。見学だけのつもりが台本読みに付き合う形になっちゃって・・・」
「ううん。なんか緊張したけど結構楽しかったし。」
「ニノ、マジで上手だったよ。どう?いっそのことうちの部活に移籍しない?」
「ええ?」
「1年が少ないんだよねぇ。3年が引退した後、一気に部員が減るから不安なのよ。」
「それもいいかもね。でも怪我が完治したら野球部戻んないといけないし。」
「戻ったところでレギュラーに戻れるの?」
「えっ・・・それは・・・まだ分かんないけど。」
「ニノはさ、絶対お芝居の方がセンスあると思うんだよねぇ。」
潤くんはもしかしたら最初から俺の事をスカウトするつもりでここに誘ったのかもしれないって、この時初めて気が付いた。
「野球部に俺が戻れる所が無かった時はお願いするよ。」
「そっかぁ、ニノはスカウト入学だったね。忘れてた・・・」
「一応ね・・・でもこんなんじゃどうにもなんないよね。俺、暫く演劇部の見学に通ってもいいかな?」
「えっ、そりゃいいけど・・・」
「あのさ、大野さんってどんな人?」
「あ・・・」
「えっ?」
「言っておくけど、大野さんは競争率高いからやめておいた方がいいよ。」
「や、やめるって・・・」
「本人は全然自覚ないみたいだけど、何しろ相当モテるんだよ。あの人・・・」
「そ、そうなの?」
「1年でも大野さん狙ってるヤツ多いよ。知らないの?」
「しっ、知らない。だって、うちは男子校じゃん。」
「男子校だから良くあるパターンだよ。」
「ニノも今日一緒に芝居してて分かったと思うけど、ギャップが凄いんだよね。」
「確かに・・・」
「大野先輩は1年の時は先輩からモテモテで、2年生になってからは他校の生徒からもモテモテだったらしい。」
「す、凄いんだ・・・」
「うちの舞台の観覧希望が多くて抽選になるのは知ってた?」
「そうなの?」
「あれって、大野先輩見たさに申し込みが殺到するんだ。」
「ま、マジで?」
「悪い事は言わないから、大野先輩だけは諦めた方がいいよ。」
「だけど、競争率が高い方が燃えるね。なんかワクワクする。」
「え?やっぱ狙ってんじゃん。」
「ね、演劇部への移籍の話、考えとくからさ、潤くんも協力してよ。」
「えええっ?」
「ね、大野さんって付き合ってる人居るの?」
「マジで言ってるの?」
「勿論!」
「大野さんは謎が多いんだよ。彼女が居ると言ってる奴もいれば、男にしか興味ないと言ってるヤツもいるしさ・・・あ、同じ3年の櫻井先輩とは1年の頃からとにかく仲が良いみたい。」
「あー、今日休んでた人?」
「あ、そうそう。」
「そっか。それじゃ櫻井って人と親しくなれば何か詳しい事分かるかもね。」
潤くんはあっけにとられて俺の事を見てる。
「どしたの?食べないの?伸びちゃいますよ?」
「フフフッ・・・ニノって、何か面白いな。」
「そうかな?」
「いいよ。俺に出来る限りの協力はさせて貰うよ。その代わり・・・」
「ホント?」
「うん、その代わり演劇部の話真剣に考えてよね?」
「分かってるって。」
ここ数日怪我で落ち込んでたのが嘘みたいに元気になった。
自分でも笑っちゃうくらい単純だけど、これが恋の力ってヤツなんだよね。
簡単に想いが通じないもどかしさとかがホント堪んないんだよね。ゲームと同じで恋愛も難易度が高ければ高いほど面白みが出て来る。
しかも、こんなに早期に俺は潤くんっていう物凄く心強い切り札までゲット出来た。
ここからはとにかく情報収集に徹して無課金で頑張るのみだ。
「はぁー美味しかった。ご馳走様でした。」
「いえいえ。どういたしまして。じゃ、また明日ね・・・」
「うん、また明日・・・」
実際はギブスの足首がめっちゃ重くて煩わしいんだけど、なんだかそれすら軽やかに俺は家路を帰って行った。
つづく