恋愛小説
黄色い泪④
そして、次の日から俺は連日、放課後になると演劇部に通った。
勿論、表向きは’見学’とか言ってるけど、本当の俺の目的は大野さん。
昔から野球ばっかりしてた俺は、女の子から人気が無かったわけじゃないけど付き合ったりする時間も正直ないし、とにかく野球の練習に明け暮れていたものだから、恋愛に関してはどちらかというと関心のある方じゃ無かった。
だけど、自分が大野さんに恋してしまったことだけは間違いない。
だって、目が合うだけでドキドキと胸が高鳴る。顔が勝手に熱くなる。これを恋愛と呼ばなくて一体何と呼んだらいいの?
大野さんは一度通し稽古を付き合ったという事もあって、しっかりと俺の事を認識してくれるようになった。
今日も、離れた場所から見学してる俺の事を気にしてくれてるのか?チラチラこっちを見て、たまに目が合うとニッコリと笑う。
もう、何なのよ?大野さんも絶対俺の事を意識してるの?絶対そうだよね。
「あのさ・・・」
「えっ、あ、はい?」
「1年の高橋って・・・知ってる?」
「え?し、知りませんけど・・・」
「あ、そう・・・」
な、何なの?あ、そうってひと言だけ言ってまた稽古に戻る大野さん。
誰?高橋って・・・もう、何だか分かんないけどめちゃくちゃ気になるよ。
それにしても、やっぱりカッコイイ。普段はふんわりしてて優しいのが顔から滲み出てるくせに、演技に入ったら立ち居振る舞いというか身のこなしがキビキビしてて別人なんだ。
って言うか、櫻井って人、結局全然姿を現さない。準主役的な存在なのに稽古に出なくて平気なのかな?
俺としては、その櫻井って人にとにかく近付いて、大野さんの事をもっと色々と聞き出したいところなんだけどな。
「ニノ、俺の協力とか全然要らないじゃん。」
「あ、潤くん。」
「大野先輩と何話してたの?」
「え?あ、ねえ1年の高橋って誰?」
「ん?それがどうかしたの?」
「わっかんない。大野さんが急に知ってるかって聞いてきたの。」
「多分、A組に高橋って居たけど・・・何だろうね?」
「知りませんって言ったら、あ、そうってひと言だけで終わっちゃってさ。もう気になって眠れないよぉ。」
「あはははっ。何だろうね?でも先輩がニノのこと気にしてくれてる証拠だよね。良かったじゃん。」
「それなら嬉しいんだけど、その高橋君がどうしたの?って話だよ。もしかしてさ、大野さんは俺じゃなくて高橋ってヤツの事気になってるってことじゃないよね?」
「ええ?でもさ、それならどうしてニノにわざわざ聞くかな?他にも1年は居るでしょ。」
「そ、そうだよね。」
「あ、そうそう!そんなことより、そのギブスって何時取れるの?」
「来週には取れる。その後リハビリだけど、どうして?」
「それがさ、櫻井先輩が急に交換留学生として選抜されちゃったらしくって、今度のコンクールに出場出来なくなったらしいんだよ。」
「ええっ?」
「それでさ、櫻井先輩の代役を誰がやるかって話になってるんだけど、候補が今のところ居なくてさ。」
「それ、大変じゃん。」
「ニノ、チャンスじゃないかなって思って。」
「え?」
「だって通し稽古の時、先輩達からもめちゃくちゃ評価良かったでしょ。代役も十分務まると思うけど。」
「お、俺?そんなの無理だよ。」
「そうかなぁ、俺はチャンスだと思うけど。だってラストシーンは大野さんからハグして貰えるじゃん。」
「た、確かに・・・」
「そのギブス取れたら稽古も十分間に合うだろうし、櫻井先輩の役はそこまで大変な台詞は無いからチャンスだよ。まあ、それにしても正式にうちの部に移籍しないと話にならないけどね。」
「そ、そうだよ・・・」
確かにあの台本でいくと、ラストシーンは大野さんとガッツリとしたハグが有る。
この前の通し稽古では俺は座ったままで台詞を追うだけだったから、それは出来なかったけど正直羨ましいと思った。
どうしよう・・・代役を申し出るにはこの上ないチャンスだけど、俺には野球部が有るし・・・
大野さんにしても最後の演劇部のコンクールだから力入ってるだろうし、代役が何時までも決まらないのは困るだろうから、代役の選考まであまり時間もないだろう。
そうかといって、甲子園は俺の夢でも有るから、簡単に辞めちゃうってなると、そこはやはり考えてしまう。
「あ、稽古戻んないと・・・ニノ、代役の話は又と無いチャンスだと思うよ。真剣に考えてみたら?」
「う、うん・・・」
恋愛を取るか、夢を追い続けるか・・・俺は究極の選択を迫られてる気分だった。
つづく