恋愛小説
黄色い泪⑨
そんな感じで俺は大野さんと正式に付き合うって事が決まり、次の日から俺は学校へ行くのが益々楽しみになった。
だけど、部活の時の大野さんは俺に何事も無かったかのように普通に接してた。それはまあ、周りに気付かれたくないからそうしてるんだろう。
俺もあえて周りに交際宣言する必要も無いし、騒がれたら騒がれたで面倒だから、それはもう当然仕方のない事だ。
だから部活の時だけは先輩後輩をキチンとわきまえて距離を置くようにしようと俺なりにそこは大人しくしてた。
プライベートが繋がってるのはこの俺だけだと思えば、このくらいは全然我慢出来る。
部活は期末試験が始まるので1週間ほど休みに入った。俺と大野さんは学年が違うから、部活が無いとなかなか顔を合わせられない。
「カズ。」
「あっ、大野さん。」
昼休みに大野さんが俺に逢いにやって来てくれた。
俺と大野さんは廊下の隅の方に行って誰にも悟られないように小声で話をした。
「明後日、休みだけどどうする?」
「あ、勿論行きますよ。」
「試験だけど勉強しなくて大丈夫か?」
「1日頑張ったところで結果は同じですよ。俺死んでも大野さんち行きますから。」
「んふふふっ・・・オーバーなんだよ。カズは・・・」
「だって本当だもの。」
「週末はうち誰も居ないんだ。親は田舎に用事で帰るらしいから。」
「えっ?ほ、ホントですか?」
「あ、うん。だから遊びに来ればって誘ったんだけど。」
「そ、それじゃあ俺、泊ってもいいの?」
「はっ?」
「だって、誰も居ないんでしょ?」
「居ないけど・・・え?泊まるの?」
「ダメ?」
「べつに駄目じゃないけど・・・」
「いやったぁ。それじゃ俺泊まる準備して来ますね。」
「ま、マジ?」
「あ・・・俺大野さんち知らないんだ。」
「俺、家まで迎えに行こうか?」
「いいの?」
「説明するより、その方が早いから。それじゃ、また当日連絡するよ。何時頃がいい?」
「何時でも!あ・・・やっぱり早く逢いたいな。」
「んふふっ、無理すんな。昼過ぎに電話するよ。」
「う、うん。待ってますね。」
「じゃ、明後日な・・・」
わざわざ電話でもLINEでも良かったのに、俺に直接そんなこと伝えに来るなんて・・・大野さんもよっぽど俺に逢いたかったのかな?
それにしても、家の人が不在とかマジでヤバくない?もう、これって完璧に期待してるでしょ?
正式に付き合うってのは、そういうことでしょ。男女が付き合うのと、俺は何も変わらないと思ってるから・・・
好き合ってる者同士が同じ屋根の下で一緒に寝泊まりなんてしたら、何も起きないのが不思議でしょ。
これは大変だ。俺だって経験ないから、何を準備すればいいのか分かんないよ。
こうして俺の中でその期待と妄想は大きく膨らんで、ついに土曜日はやって来た。
「母さん、俺今夜友達の家に泊まるから・・・」
「ええっ?聞いてないけど。」
「今初めて言ったんだから、聞いて無いのは当たり前だよ。」
「誰のお家に泊まるのよ?」
「部活の先輩の家。試験前だから勉強教えて貰いに行くの。」
「ふうん、勉強ねえ・・・」
母さんには悪いけど、嘘を付いた。試験勉強と言っておいた方が変に疑われたりすることもない。
実際は勉強なんかしないけどね・・・
俺は小さめのリュックの中に着替えの下着だとか詰め込んで大野さんからの連絡を待った。
そして正午過ぎ、約束通り大野さんが電話を掛けてきた。
「もしもし・・・カズ?」
「あ、うん。」
「支度出来てるか?」
「直ぐにでも出れますよ。」
「あと5分も掛かんないから、家の前に出て待っててよ。」
「はぁい。」
いよいよ大野さんちにお泊りだ。
俺は内心期待と不安でドキドキしながら言われた通り玄関で大野さんが来るのを待っていた。
つづく