恋愛小説
黄色い泪⑩
大野さんはTシャツにGパン姿とラフな格好で俺の目の前に現れた。普段、学生服しか見慣れないから、ちょっと何時もより大人っぽく見えてドキッとした。
「ゴメン、お待たせ。」
「あ、ううん、全然待ってないです。」
「それじゃ、行こうか・・・」
「はい。」
大野さんちは電車で二駅先らしい。
今日は土曜日だから、電車も何時もよりただでさえ多いっていうのに、何かの事故かトラブルでダイヤが乱れてるらしくて駅のホームがごった返してた。
「マジか・・・ついて無いなぁ。」
「仕方ないですね。べつに急ぐ必要ないから並んで待ちましょう。」
15分位待ってからようやくアナウンスが流れて電車が到着した。まあ、当然だけど車内はギュウギュウのすし詰め状態だった。
大野さんは俺とはぐれない様に、俺の手を掴んだ。ただ手を繋いだだけなのに、俺の心臓は馬鹿みたいにドキドキし始めて顔がカアッと熱くなった。
ヤバイよ。何か、今日大野さんの彼氏感が半端ないんだけど・・・。俺が意識し過ぎてるせいかな?
本人はきっと無意識にそうしてるんだろうけど、駄目だ。俺もっとこの人のこと好きになっちゃうよ。
「カズ?顔が赤いけど大丈夫?熱でもあんじゃない?」
「ううん・・・だ、大丈夫。」
それでも二駅って直ぐに着いてしまって、電車を降りたら直ぐにその手は離されてしまった。
「ふぅ・・・散々だったな。クーラー入れてあってもあれだけ人が乗ってたら、全然冷えないから汗だくだよ。」
「そ、そうだね・・・」
「カズ、本当に今日うちに泊まるの?」
「俺はそのつもりですけど。」
「それじゃ、今夜の夕飯何にするか考えなきゃな・・・ちょっとスーパー寄ろうか?」
「あっ、はい。」
「どうしよ?出来てるヤツ買うか?」
「うん、お弁当で良いと思うけど。」
俺達は途中で食品スーパーに立ち寄ってジュースやスナック菓子、夕ご飯用のお弁当とかを買い出しした。
そして、そこから歩いて約10分・・・大野さんの自宅に到着した。
「どうぞ。散らかってるけど・・・」
「それじゃ、お邪魔しまーす。」
初めてお邪魔する大野さんの自宅。大野さんはとりあえずリビングのエアコンのスイッチを入れてソファーに座れって俺に促す。
「暑いなぁ。本当はさ、遊園地とかプールに行っても良かったんだけど、今年の暑さ半端ないからな・・・」
「俺は大野さんと二人なら何でもイイんです。」
「え・・・?」
「あ、それで、これから何します?」
「何も考えてない。カズは何かしたいことある?」
「お、大野さんの部屋が見たいかな・・・」
「え?汚ったないぞ。」
「いいの。それでも見たい。」
「二階だけど、暑いぞ・・・」
「俺に見られて困る物でも?」
「ええっ?な、なんだ?それ・・・」
「エッチな本とか・・・」
「んふふふ。そりゃ、男だもん。エロ本の1,2冊持ってるよ。カズも持ってるだろ?」
「それは・・・内緒です。ねえ、見せて!見たい!」
「マジか・・・んふふっ。じゃ、ついておいでよ。」
やった!大野さんの部屋に上がればこっちのものだよ。しかもエロ本とか最高でしょ。2人でそれ見てたらムラムラしてきて・・・そしたら当然、そうなるよね。
「あんまり汚いからって引かないでよ?」
「大丈夫ですってば。」
大野さんが部屋の扉を開けた。部屋は西日が当たっててめちゃくちゃ暑い。大野さんが慌ててエアコンを点けてくれた。
「そこまで散らかってないじゃない?」
「そうか?」
「俺の部屋見たら幻滅するよ。」
「へえ・・・カズの部屋も見てみたいな。」
壁にはめちゃめちゃデカい魚拓が飾られてあった。大野さんって釣りするんだ?俺はポカンと口を開けてそれを眺めてた。
「あ、それは俺が今年釣った魚・・・」
「へえ。大野さんって釣りするんだ?」
「うん。お芝居より好きかも。」
「そうなの?意外だなぁ・・・」
「ね?俺の部屋なんもないだろ?面白くもなんともないんだよ。」
「そんなことないですよ。色々お宝が隠されてるかもしれないし・・・」
俺は窓側に置かれてるベッドの上に勝手に腰掛けた。隣に座ってくんないかなぁって思ってると、大野さんはゴソゴソと押し入れの中の引き出しを開けて何か探し始めた。
「はいっ・・・これ、見たいんだよね?」
大野さんがそう言って俺に2冊のエロ本を手渡した。べつに女の子の裸なんかどうでもいいんだけど、折角だから俺はそれを受け取った。
大野さんは、自分の勉強机のところに腰掛けて、俺の隣に座ろうとしない。
これって、逆に意識してくれてる証拠だろうな・・・大野さんって意外と奥手なのかもしれない。だとしたら、もっと俺から誘った方がいいのかな?
「カズってさ、休みの日は何してんの?」
「え?あ・・・野球部だった頃はバッティングセンターに行ったり、家で専らゲームですよ。」
「両極端なんだな?」
「うん、基本的に俺はインドア派なんで・・・あれれ?大野さん、これって袋とじそのまんまなんだ?」
「あ、うん。いいよ。見たいなら開けても。」
「これって、もしかして大野さんちゃんと見てないでしょ?」
「ん?ああ・・・いらねって言ってるのに友達が勝手にくれるからさ。」
「興味が無いってことじゃ無いんですよね?」
「うーん・・・何だろうね?」
「ね?聞いてもいい?」
「ん?何?」
「大野さんって、チェリーとかじゃないよね?」
「ハハハッ、何だそれ?」
「ちゃんと答えて!笑わないから。」
「じゃ、カズは?カズが教えてくれたら答えるよ。」
「え・・・」
大野さんがそう言いながらゆっくり立ち上がって俺の隣に腰を下ろした。
つづく