恋愛小説
黄色い泪⑯
大野さんがイケメン風の男の人と何やら親しげに話してるのを見て、俺はちょっとだけジェラシーを感じた。
気になるから、離れた場所からジィっと二人を見ていたら、大野さんが俺の視線に気付いておいでって手招きした。
俺は飼い主に従順な犬みたいに尻尾を振って小走りに大野さんに近付く。
「カズ、こちらは演劇部のOBの松岡さんだよ。」
「OB?」
「松兄、この子が1年の二宮ですよ。」
「あー、お前がかぁ・・・」
「ど、どうも。初めまして・・・」
「で?もうお前たちデキてんのか?」
「えっ・・・」
何?この人突然そんなこと・・・まさか大野さん喋っちゃったの?
「もぉ、松兄からかわないでよ。カズは俺の可愛い後輩ですよ。」
「だって、櫻井の代役を大野たっての希望でこの子にしたんだろ?何か裏が有ると思うのが普通だろ?」
「松兄の考えすぎですよ。」
「そうかぁ?ま、いいけどね。それより、さっきの話だけどちゃんと考えといてくれよ。」
「あ、はい。わざわざ来て頂いてすみませんでした。」
「可愛い後輩の頼みとあらば何時でも協力させて貰うよ。自分に出来る範囲でだけどな。」
「ありがとうございます。」
「うん、じゃあ連絡待ってるから。・・・二宮くんだっけ?」
「はっ、はい?」
「ほどほどに付き合えよ。」
「えっ・・・」
「はははっ、いや、こっちの事。じゃ、俺、顧問に挨拶して帰るわ。稽古中に邪魔して悪かったな。」
松岡という人は、そう言って帰ってしまった。
「あの人・・・何しに来たの?」
「え?あ、うん、ちょっとね。それは後で話すよ。」
「う、うん・・・」
「基礎練始めるか?」
「ああっ!」
「な、何?どうした?」
「大野さん、俺・・・大変な事になったの。」
「ん?大変って何が?」
「ゴメンなさい・・・」
「だから、何が?」
「俺ね、合宿参加出来ないかもしれない。」
「えっ?マジで?」
「うん・・・本当にごめんなさい。」
「ど、どうして?」
「期末試験の結果が散々だったから、課外補習授業を受けるように言われちゃって・・・」
「えええ?」
「ホント、ごめんなさい。こんなことになるの分かってたら、真面目に試験勉強やるんだったよ。」
「なんだ。んふふふ・・・そういうことか。」
「え?」
「気にしないでいいよ。合宿は俺も実は行けなくなったんだ。」
「ええっ?それ、本当?」
「うん。両親が新潟に引っ越すのが丁度その辺りになっちゃってさ。俺も手伝いに行かないといけなくて。」
「え?やっぱり引っ越し決まったの?」
「あ、うん。」
「大野さんは?大野さんはどうするの?」
「あっ、俺はそのまま卒業までは一人で生活するよ。」
「そっかぁ。」
「合宿の事は俺から部長に話しておくよ。だけど、合同で稽古出来ない分、頑張らないと追い付かないけど大丈夫?」
「うん、そこは何としてでも頑張りますよ。」
「んふふっ・・・課外補習って、どんだけ試験酷かったの?」
「なんだよぉ・・・誰のせいだと思ってるの?」
「えええっ?試験が駄目だったのと俺と関係あんのか?」
「有ります!有るに決まってんじゃん。」
「マジか・・・じゃ、補習授業終わるまで逢えないな。」
「ええ?な、何で?」
「んふっ、だって俺と会ってたら勉強に身が入んないだろうから。」
「逢わなきゃ逢わないで気になって身に入んないよ。」
「我儘言ってんじゃねえぞ。」
大野さんは笑いながら俺の頭をくしゃって撫でた。たったそれだけの仕草でも胸がキュンとなる。
さっき、松岡って人も言ってたけど・・・ほどほどに付き合えって、こういう事なんだろうか?
若さゆえに周りが見えなくなっちゃうとか、一度関係持ってしまったら次に出来るのは何時だろうとか、頭の中はそういうことで一杯になっちゃうんだよ。
「どうしたの?柔軟始めるよ?」
「あっ///う、うん・・・」
俺は大野さんと基礎練の柔軟運動を始める。
横に座った大野さんが、俺にしか聞こえないくらいの小さな声で
「夏休み・・・もっかい泊まりに来るか?」
って囁いた。その声聞いただけで俺は色んなことを思い出して一人で真っ赤になった。
つづく