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黄色い泪⑰
大野さんが卒業まで一人暮らしって聞いて、めちゃくちゃテンションが上がった。
さっきまでは課外の補習授業受けなきゃなんなくなって、地獄に突き落とされた気分だったのに自分でも笑える。
ホント、神様って決して見放したりしないんだなって、この時ばかりは思ったりした。
だって、俺だけ合宿行けないって思って落ち込んでたのも好転したわけだから、そりゃ嬉しいに決まってる。
しかも大野さんの口から「また泊まりに来ない?」ってお誘いがあるなんて・・・
実際、俺も大野さんもまだ高校生だから、車だって持ってないし、エッチしたくてもホテルとかに行く金も無い。
まあ、仮に小遣いを死ぬほど貰ってたとしても、男同士で、しかも徒歩でラブホに通う勇気もないわけで。
だから実は、次のチャンスは何時やって来るんだろう?って、その事ばっかり心配してたっていうのあるから、“一人暮らし”ってワードにときめかないわけがない。
とにかく、こうなったら死ぬ気で勉強して追試はバッチリ合格点を取らなきゃ・・・
その頑張ったご褒美がお泊りって考えるなら頑張り甲斐もあるってもんだ。
そんなことが有って1学期が終わり、とうとう夏休みに入った。
俺は朝から夕方まで1日補習授業を受けるから、当然演劇部には顔を出せない。。
俺の追試が行われるのが8月3日だから、丁度皆が合宿で居ない頃だ。追試の結果次第では更に補習授業が延長される。
だから、どうしても追試だけは合格しないと本当にコンクールまでの稽古に参加出来なくなるから、それは困る。
演劇部も夏休みに入って朝から夕方までみっちり稽古のスケジュールが組まれてて、大野さんも稽古には顔を出してるみたいだけど、
俺はあえて勉強に集中するために、追試が終わるまでは大野さんには逢わないと決めた。
俺だってやれば出来るんだってところを見せとかないと、親にも失望され掛けてる。
大野さんに逢えない寂しさと、大好きなゲームも試験終わるまではお預けと決めて、俺は連日勉強に明け暮れた。
その甲斐有って、試験当日、俺はかなりの手応えを感じて答案用紙を埋め尽くした。
試験に集中してたから、すっかり忘れてたけど、今日は大野さんの両親が新潟に引っ越しをする日だって事を思い出した。
大野さんは引っ越しを手伝うと言ってたから、今日は新潟に泊まるんじゃないかな?
一応、試験が終わったから大野さんにLINEだけ入れて、無事に試験が終わったことだけは伝えておいた。
すると、直ぐに既読になって、それに対して返事が返って来た。
=俺、今上野駅。今から家に帰るけど、ちょっとだけ会えない?=
大野さんも俺に逢いたくて我慢してくれてたんだ?そう思うと、もう嬉しくて顔が思わずニヤケる。
=じゃ、俺一度家に戻ってそれから直ぐに大野さんち向かいます!=
=了解=
大野さんに会うのは10日振りだ。試験の結果はまだ出てないけど、この分だと合格点は余裕でしょ。
とりあえず、何日泊めて貰おうかな。ご両親も新潟なんだから、この前みたいに急に帰ってくることは無いだろうし。
なんなら夏休みの間、ずっと泊まっちゃおうかな・・・
俺は自宅に戻って急いで泊りの準備を始めた。
「母さん、俺暫く友達の家に泊めて貰うから。」
「ええっ?暫くってどういうこと?」
「友達のご両親が不在なんだよ。だから泊まっていいって。」
「本当にお友達なの?」
「なっ、何だよ?それってどういう意味?」
「女の子じゃないでしょうね?」
「ええっ?ば、バカじゃないの?俺彼女とか居ないし!」
「だったらいいけど・・・でも幾らご両親がいらっしゃらないからといって外泊はあんまり関心しないわね。」
「息子のこと信用してないの?勉強だって真面目にやってたの見てたでしょ?」
「赤点取ったんだから当然じゃないの。威張って言う事じゃないでしょ。」
「そりゃそうだけど・・・」
「とにかく、そのお友達が誰なのかも言えないんじゃ、外泊を認めるわけにはいかないわ。」
「ええ?母さん、頼むから固い事言わないでよ。」
「だったら、お友達を先ずはここに連れていらっしゃいよ。」
「えええっ・・・わ、分かったよ。でも明日でいいでしょ?今日はもう泊まるって言っちゃったんだ。」
「明日必ず連れてらっしゃいよ。そうしないなら夏休みの間は外泊禁止だからね。」
「もー、分かってるよ!」
まあ、夏休みに子供が非行に走るのは珍しくは無いから、うちの母さんが心配するのは分からなくもないけど、それにしたって俺は中学生じゃないのにさ。
ちょっと厳しすぎて大野さんだって引いちゃうに決まってる。
だけど、相手が男だって分かればうちの母さんだって安心するんだろうし、大野さんには悪いけど一度家に付き合って貰うしかない。
一難去ってまた一難とはこのことだよ。
せっかく補習授業から解放されるっていうのに、次は親の説得・・・
この時ほど早く大人になりたいと思った事はないよ。
つづく