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黄色い泪⑱
それからグチグチと母さんの小言が始まったんで、俺は逃げ出すように家から飛び出して大野さんの所へと向かった。
自分が思うようにいかないのは、まだ俺が16歳の未成年だから。色々と抑制されるとかえって反発したくなるのもこの時期ではあるから、親も俺の事をデリケートな腫れ物みたいに扱ってくれてるところも有るにはあるんだけど。
母さんが小言を言い出すととにかく止まんなくなるから、当然何時も俺は逃げるという行動に出る。
大野さんに関してだけは、いくら母さんとはいえ口挟まれたくない。俺と大野さんの仲を引き裂くような真似をする奴は誰が何と言おうと俺には全て敵だから。
それにしても、もうかれこれ2週間近く逢えずに我慢してたんだから、ちょっとした禁断症状も出たっておかしくはないよ。
俺の身体の半分はあの人で出来てるんじゃないの?って思っちゃうくらい、あの人が不足してる俺は干上がった魚に例えても過言じゃない。
その日は35度を超える猛暑。そんな中俺はフラフラになりながら大野さんの自宅まで全速力で走る。
とはいえ、足を負傷してからは思うように走れないから余計に体力を消耗していく。
大野さんちにようやく着いて呼び出しのベルを鳴らすと、大野さんが優しく笑って俺を出迎えた。
「いらっしゃい。早かったな・・・」
「はぁ、はぁ・・・うん・・・」
「とにかく入って。」
靴を脱いで玄関を上がると、大野さんにダイブする様に胸の中に飛び込んだから、大野さんはバランスを崩しながら必死に俺を受け止めた。
「か、カズ?」
「ずっと逢いたかったの。」
「とにかく中で話そうよ。バカだなぁ、そんなに急がなくても俺は逃げないのに。走って来たの?もう汗だくじゃん。」
「大野さんは俺と逢いたくなかったの?」
「ええ?そりゃ逢いたかったけど・・・」
「けど、何?」
「何も、一生逢えないわけじゃないでしょ。」
え・・・大野さん、俺とは温度差がある?この時ちょっとだけそれを感じてしまった。
「ほら、シャワー浴びて来なよ。そのままだと風邪ひいちゃうぞ。」
「う、うん。」
俺はとりあえず言われるままにシャワーを浴びて汗を流した。着替えも持たずに飛び出して来たから、大野さんの着替えを借りた。
それにしても久々なんだからもうちょっと喜んでくれると思ってたのに、大野さんは意外と冷静で、俺からするとちょっと拍子抜けした感じ。
大野さんは俺が思ってるほど俺の事を好きじゃないのかな・・・
リビングに戻ると、大野さんが冷たいお茶をグラスに注いでくれて俺に手渡した。
「あ、どうも・・・」
「追試は今日までだったんだよね?どうだった?」
「あ、うん。もう完璧ですよ。あれで不合格なら俺は採点したヤツが俺を陥れる為の陰謀としか思わないから。」
「んふふ・・・言い方・・・」
「もうね、俺がどんなにあなたに会いたいの我慢してたと思う?」
「んふふ・・・まあ、どっちみち俺も忙しくて昨日まではゆっくり会える状況じゃなかったしな。」
「あ・・・引っ越し?」
「うん。」
「今日は向こうに泊まるのかと思ってたけど。」
「そこで普通は気付くだろ?」
「ええ?」
「ホントは俺もカズに早く逢いたかったんだよ?」
「ま、マジで?」
「うん///」
単純だけど、その言葉聞いたら一瞬で色んな不安は消えた。大野さんは想像以上の照れ屋さんなんだよ。
あまり自分の感情を口にしたりする人じゃないから、こっちが気付いてやんないと誤解して喧嘩を招いちゃう。
「今夜、泊まれる?」
「あ、うん。そのつもりだけど・・・あのね、大野さん?」
「ん?」
「あ・・・ううん、いいや。何でもない。」
せっかく久し振りイイ感じなのに、今何もここで親このと話す必要は無いって思った。
「何だよ?ちゃんと言えよ!気になるじゃん・・・」
大野さんは対面のソファーに座ってたけど、そこからすっと立ち上がって俺の隣に移動して腰を下ろし、優しく肩を抱きながら俺の顔を下から覗き込んだ。
「ええ?あ、いいなぁって思ってさ。その、一人暮らしが・・・俺もしたいなぁって。」
「ホントにそれだけかよ?何か他にも言いたい事あったでしょ?」
「ええ?な、無いよ・・・」
「俺ね、カズが嘘ついてるのは直ぐに分かるよ・・・」
「え・・・」
「俺、こう見えても好きな人の事はちゃんと見てるからね?」
「大野さん・・・?」
「言いたくないなら言わなくてもいいけど・・・」
大野さんはそう言いながら、そっと唇を重ねてそのままソファーへと押し倒された。
ああ・・・ダメだ。めっちゃ好きだよ。大野さんには悪いけど、このタイミングではとても話せないよ。
俺は流れに逆らうことなく火照った身体を全て大野さんに預けた。
つづく