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黄色い泪⑲
補習授業のご褒美はたっぷりと味わって頂いた。
正直2度目とは思えないくらい、もうお互いの何処が感じるとかを完全に把握して覚えてるところが凄いって思う。
ソファーの上だけでは飽き足らず、その日はとにかくどちらかが眠くなるまで愛し合った。
次の朝も、この前みたくご両親が突然戻って来るなんてこともなくて、ちゃんと大野さんの腕の中で目が覚めた。
すぅすぅと聴こえてくる寝息と抱かれてる腕の温もりはなんて心地良いんだろう。
もうずーっとこうしていたいよ。出来る事なら、この夏休みの間だけでもずっと一緒に居たい・・・
でもそうなると、うちの母さんが黙ってないだろうし。もう、ここは大野さんに協力してもらうしかないよな。
大野さんだって、想いは俺と一緒な筈だから・・・きっとお願いすれば母さんに一度は会ってくれるだろう。
「ん・・・おはよ。」
「おはよう。」
「今日はもう補習授業行かなくてもいいんだよね?」
「うん、試験の結果は明後日発表だから、今日までは休み。」
「それならゆっくり寝てていいのに。」
「でも、なんだか勿体なくって。」
「んふふ、それ何か俺も分かるな・・・」
「せっかく一緒に居るのに、寝てるだけって勿体ない気がするんだよね。だからって何がしたいって事でもないんだけど。」
「だけど、身体休ませてあげないと、壊れちゃうよ?」
「もう俺、なんなら大野さんにならめちゃくちゃにされても構わないけど。」
「はははっ、嬉しいけどカズが壊れちゃったら俺が困るよ。」
「そっか・・・」
「今頃合宿頑張ってるかな?」
「あ、うん。コンクールまで1か月切っちゃったしね。」
「主役の俺らが不参加って悪い事しちゃったよなぁ。」
「我々は皆に迷惑が掛からない様にそれなりに自主練しておけばいいことじゃない?」
「そうだな。カズも台本いい加減覚えないとな。」
「頑張ります。」
「今日はこれからどうする?」
「あ、あのね・・・大野さん・・・その事なんだけど。」
「ん?」
「この夏休みの間、大野さんも折角一人暮らし出来る様になったわけだし・・・俺ね、つまり、出来れば休みの間ここにずうっと一緒に居たいと思うんだけど・・・」
「え・・・あ、うん。それは俺もそうしてくれると嬉しいけど・・・でもカズの家の人、何も言わないの?」
「それがさ、何でか男友達の自宅に泊まるって言っても信じてくれなくて・・・」
「まあ、そうだろうな・・・」
「その男友達に会わせろって煩いの。それで、今日は大野さんを家に連れて来るって言っちゃったんだよね・・・」
「そうなの?」
「相手が大野さんだと分かれば絶対外泊は許してくれると思うの。だから、悪いけどちょっとだけ付き合って欲しいんだけど。」
「・・・」
大野さんは俺がそういうと、ベッドから起き上がって腕組みしてちょっと難しい顔しながら何かを考え始めた。
「あの・・・大野さん?」
「・・・あのさ。」
「は、はい?」
「俺もね、カズとずっと一緒に居たいのは山々なんだよ。だけどさ、それってカズのお母さんは相手が女子高生じゃないなら安心するって話だよね?」
「そ、そうですけど?」
「それは、つまり俺は普通の学校の友達ですって芝居して親を騙すってことだよね?」
「あ、いや、だ、騙すってそんな・・・」
「でも、そういうことでしょ?」
「う、うん・・・まあ。でもさ、それで親が安心して外泊認めてくれるんだからいいでしょ?」
「カズ、それは駄目だよ。」
「ええ?何で?大野さんも俺とずっと一緒に居たいんでしょ?」
「だけどさ、親を安心させといて、実は俺とこんな事になってるなんて・・・なんか俺は気が進まない。」
「そ、そんな。だったら付き合ってるって正直に言うの?そっちの方がうちの親からすれば衝撃だと思うけど。」
「とにかく、今日のところは大人しく帰りなよ。ここに毎日来るのは全然構わないよ。でも外泊続けるのはよさないか?」
「大野さん・・・」
ショックだった。大野さんがそこまで頭固い人とは思わなかったし、話せばわかってくれるとばかり思ってたから。
やっぱり昨日感じた温度差は気のせいじゃ無かったんだ。
俺が思ってるほど、大野さんは俺の事を想ってくれてないのかもしれない。
それから俺はすっかり意気消沈してしまい、もう自分から進んでアプローチすることをやめてしまった。
それは決して大野さんへの熱が冷めてしまったとかそういうんじゃないんだけど、何というか・・・
これ以上俺一人が恋愛に酔い痴れて、逆上せて傷つく事に恐怖心が芽生え始めたからだと思う。
結局大野さんは、うちの親に逢う事を最後まで躊躇い、夏休みに外泊したのはこの日の1日だけになってしまった。
つづく