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黄色い泪⑳
それからというもの、俺は大野さんと少し距離を置くようにした。
本当は夏休みの間、ずつと一緒に居たかったけど、俺も大野さんが一人暮らししてるって事をもう忘れる事にした。
大野さんがうちの親に逢って嘘を付くのを頑なに拒んだわけだから、これはもうどうしようもない。
俺の親に逢わない、イコール俺の事が嫌い、って事ではないことは俺にも分かる。だから、少しは自分も大人になる努力はしなきゃって思った。
だけどその数日後に、俺は何もかも分からなくなる様な衝撃的な出来事が起きたんだ。
赤点だった科目の追試は驚きの高得点で全て合格して、担任を驚かせた俺は演劇部の稽古に復帰していた。
その日、稽古場に大野さんの姿が見当たらず、キョロキョロと大野さんを探した。
「潤くん、大野さん知らない?」
「え?聞いて無いの?」
「何を?」
「大野さんは今日、松岡先輩の劇団のオーディションなんだよ。」
「げ、劇団の?」
「え?ニノは聞いてると思ってた。」
「し、知らないよ?何それ?」
「大野さん、松岡先輩に自分から劇団に入りたいって相談してたらしいんだ。」
「で、でも大野さんはまだ在学中だし、劇団なんて今直ぐには無理だよね?」
「うん、そこは俺も分かんないけど、合格したら学校は辞めるんじゃないかな?」
「えええっ?」
「何か、事情が色々有るみたいだよ。」
何で?どうしてそんな大事なこと、俺には一言も言ってくれなかったの?
「ところでニノって、その後大野さんとはどうなってるの?」
「え?あ・・・付き合ってる。」
「ええ?いつの間に?」
「しっ、声が大きいよ!」
「ご、ゴメン。でもそれ本当なの?」
「うん・・・でも俺、今の話聞いてない。何で潤くんは知ってるのに、俺は何も聞かされてないの?」
「俺も合宿中に先輩たちが話してるのを聞いて知ったんだよ。」
「なるほどね。こないだ俺が課外補習の報告で来た時に確かあの人が来てたけど、その話で来てたんだ・・・」
「ああ、そうそう。そうだよ。」
大野さんは進路のことで俺のことどころじゃ無かったってこと?
そりゃ、俺が毎晩泊まり込んでベタベタしまくってたら、オーディションには集中出来っこないもんな。
だけど、あんまりだよ。親に嘘つくのが嫌だっていうから、単純に大野さんのこと誠実な良い人なんだって思ったのに・・・そうじゃなかったのかよ?
なんだか、急に俺は大野さんって人が分からなくなって怒りさえ込み上げてきた。
俺が子供で自己中なのが恥ずかしいとさえ思ったのに・・・本当に自己中なのはあの人じゃん。
稽古を終えて帰宅しようとしていたら、大野さんからスマホに着信が・・・
「もしもし・・・」
「あっ、カズ?」
「なんすか?」
「え?何か・・・怒ってる?」
「随分嬉しそうですね?ああ~あれか・・・オーディションうまくいったんだ?」
「ど、どうしてそれを?」
「やっぱりね。良かったね。邪魔者が居ないからしっかり集中出来たでしょ?」
「待って、なに言ってんの?」
「悪いけど、俺これから用事あるんで・・・」
「え?カズ、待って!」
俺だって、大野さんと喧嘩なんかしたくないよ。
だけど、この事で2人の間に入ってしまった亀裂は簡単に修復出来ないくらい深刻なものになっていった。
つづく