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黄色い泪㉑
それから俺は子供みたいに拗ねて電話も着信を拒否し、演劇部の稽古も仮病を使って3日連続で休んだ。
今は何も考えたくなくて、俺は部屋に引き籠ってひたすらゲームしてた。
何時までこんなことしてるつもりなのかは自分でも分からない。
演劇部を辞めようとまでは思わないけど、俺と温度差があるって分かった以上、今は大野さんには逢いたくないと思った。
こんなに世の中便利な物が溢れてるっていうのに、好きの度合いを測る測定器ってどうしてないんだろ?
もしもそういうのが実在して、俺の大野さんへの好きって想いを測定したら、多分測定不能なくらい測定値上がると思う。
逆に大野さんの場合は「え?たったのそんだけ?」ってなりそうだから、それはそれでへこむかも知んないけど・・・
事前に分かってれば、関係も持たなかったかもしんないし、ここまで傷付かずに済んだかも知れない。
俺は将来、理工学系の大学に進学して、そういう類の測定器を発明しようかな。・・・そんな事をマジで考えてしまう俺は重症かも。
「カズ、演劇部のお友達の方がいらしてるわよ。」
母さんが俺の部屋にやって来てそう告げた。
「ええ?誰?」
「知らないわよ。母さんは野球部の子しか見たこと無いもの。」
大野さん?まさかね・・・
「ちゃんと名前くらい聞いてよ。」
「だって暑い中来られてるんだもの。もう、リビングに通しちゃったわよ。さっさと行きなさい。」
「ええ?マジかよ?」
俺は頭を抱えながら渋々リビングに降りた。3日も休んだから潤くんが心配して来てくれたかも・・・
リビングのソファーに腰掛けてる学生服姿の後ろ姿見て、俺は思わず後退りした。だって、それは間違いなく大野さんだったからだ。
大野さんは俺の気配に気付き、後ろを振り返った。
「カズ・・・」
「ど、どうして?」
「どうしてって、それはこっちの台詞だろ。」
「か、帰って貰えますか。」
「カズ、お願いだから逃げないで俺の話を聞いてくれよ。電話にも出ないし、部活にも来ないし心配してたんだ。」
「ふうん・・・心配ねぇ。」
「ね?どうして怒ってるの?」
「ここじゃ話せないよ。来てっ。」
さすがにこれ以上は母さんの前では話せない。俺は大野さんの手を掴むと、2階の自分の部屋に行こうと引っ張った。
「ちょっと、カズ?今お茶淹れたのに何処行くの?」
母さんが階段の上り口のところから俺を引き留めようとした。
「お茶とか要らないよ!それより2階にも絶対に上がって来ないで!」
そう言い放って階段を上り、部屋に入って中からしっかりと鍵を閉めた。
「どうせ来るんなら、あの時来てくれたら良かったのに・・・」
「えっ?」
「俺がお願いしたあの日ですよ。」
「あ、うん・・・そうだよな。ゴメン。」
「正直に言えば?俺に連日泊まられたらたまったもんじゃなかったんでしょ?」
「はあ?」
「だって、あなたは最初から劇団のオーディション受けること決めてたんじゃないの?」
「その事だけどね、俺べつにカズに隠そうとしたわけじゃないんだ。」
「それじゃあどうしてそれを先に教えてくれなかったの?俺が反対して邪魔するとでも思った?」
「違うってば。」
「本当は俺なんて二の次なんでしょ?」
「カズ!黙って俺の話聞けって・・・」
大野さんは俺の腕を引っ張ると胸の中にぎゅーと俺の事を抱き締めた。久し振りに抱き締められた俺は、その懐かしい香りに思わず怯みそうになった。
「こんなにお前のこと好きなのに・・・何で分かってくんないんだよ。」
「えっ・・・大野さん?」
「先に言わなかったことは謝るよ。本当に悪かった。ゴメン・・・でもさ、俺はカズの事邪魔だなんて一度も思った事ないよ。」
「嘘だ!」
「本当だって。信じてよ。俺、ギリギリまでうちの親から一人暮らしするのを反対されてたんだ。卒業後に大学行かないのなら、一緒に新潟で仕事手伝えって言われてさ。」
「そ、そうなの?」
「ああ。新潟なんかに着いてったら、それこそカズとは逢えなくなるだろ?俺は何とか東京に残る方法はないものかって、必死で考えたんだよ。進路がキチンと決まってたらうちの親もさすがに納得してくれるだろ?それでたまたま演劇部の先輩の松兄がさ、有名な劇団に入団してたから、俺も入れて貰えないか相談したんだ。そしたらたまたま新人の劇団員を募集してるから、オーディション受けてみるといいって話を持ち掛けてくれたんだよ。上の人にも口利いてくれたりしたんだ。だけどそうは言ってもさ、ちゃんと合格するかも分かんないわけだし、カズには結果が分かってから話そうって思ってたんだ。」
「うん、だからね、そのオーディション受けるのに、俺が居たら集中出来ないでしょ?だから、連泊でもされたら困るから親に会ってくんなかったんでしょ?」
「だから、それは違うって。どう言えば分かってくれんだよ?」
「じゃあ、もしオーディションが不合格だったらどうなるの?」
「俺は頭も大して良くないから、大学とか進学も無理だし、好きなお芝居で飯が食えるようになれば、それが一番だと思ってる。だけどそれは簡単なことじゃ無いし、先輩の劇団みたいに大きい所でないと、なかなか飯なんて食っていけないのも事実なんだ。だから、今回のオーディションが駄目だったら役者はキッパリ諦めて普通に仕事を探すつもり。」
「でも劇団合格したら学校辞めちゃうんでしょ?」
「あ、うん。それは覚悟してるよ。」
「それじゃ、同じことじゃない。どのみち俺とは逢えなくなるよね?新潟行かなくて良くなるけど、俺とも逢えなくなる。」
「カズ、落ち着いて考えてよ。俺は遅かれ早かれ来年春には卒業で先に居なくなるのは決まってるんだよ。」
「分かってるよ。そんなの・・・でも、何もそれをわざわざ早めなくても良くない?」
「カズは俺とずっと一緒に居たいんだよね?」
「そんなの当たり前じゃない。」
「全てはその為なんだ・・・」
つづく