恋愛小説
黄色い泪㉒
「えっ・・・俺とずっと一緒に居る為って、どういうこと?」
「今住んでるあの家はね、いずれ親は売りに出すって言ってるんだ。だから、俺は卒業までは住むとこ保障されてるけど、その後は自分で住むところ探して生活してかなきゃなんないわけ。あの劇団は採用決まれば制限はあるけど、家賃補助してくれるらしいし、そうすればカズとだってずっと一緒に居られるもの。」
「早くそれ言ってくれれば良かったのに・・・」
「気が付けばカズは色々勘違いして怒ってたし、電話も出ないしじゃ、どうする事も出来ないでしょ?稽古にも顔出さないから、流石に焦ったよ。」
「大野さんがそんな状況だったなんて全然知んなかったんだもん・・・なんか、ごめんなさい。」
「分かってくれた?」
「うん・・・」
「俺、カズの事で頭いっぱいだよ。嘘じゃないよ。」
「ホントに?」
「信じられない?なんなら、今からお母さんにカズとの交際許して貰おっか!」
「ま、待って!分かった、信じるから。」
「んふふっ・・・俺はどんなことが有ってもカズと離れる気はないから。」
「大野さん・・・」
「ちゃんと演劇部には戻ってきてくれるよね?」
「う、うん。」
「良かった。俺にとってもコンクールは最後の行事になるかも知んないしさ。」
「合格が分かるのは何時なの?」
「9月の中頃かな・・・」
「そっか。」
何かちょっと複雑な気分。大野さんが劇団に採用が決まると、もう学校では逢えなくなる。
でも、不合格なら最悪大野さんは住むところが無くなって新潟に連れ戻される可能性だって有るわけだから・・・
大野さんは3年ってことで、進路やら家の事情とか現実的な問題を沢山抱えてたんだ。一人で凄く悩んだだろうな。
それなのに、俺はただ温度差とかそういうことしか考えないで、子供みたいに拗ねて大野さんを困らせることしかしなかった。
申し訳ないというか、只々情けないというか。
「・・・もう、俺の事嫌いになったでしょ?面倒くさいヤツだって・・・思ったでしょ?」
「ううん。そんなことないよ。だって、俺の事が好きだから怒るんだし、カズは分かり易いから、そういうところも大好きだよ。」
その言葉に俺は胸が一杯になって、泣きそうになった。それを誤魔化すように自分から再び抱き着いて唇を尖らせてキスをせがんだ。
「えっ・・・ここで?」
「うん、ここでして・・・」
「で、でもお母さん居るよ?」
「鍵掛けてるもの。大丈夫だよ・・・」
俺達はどちらからでもなくお互いの唇を重ねた。
やっぱ大野さんと交わすキスは最高に気持ちよくて、どうしてもキスだけでは収まるはずもなく、勝手に身体の中心が疼いて我慢できなくなって、それに気付いた大野さんとお互い目を見合わせてクスクスと笑い始めた。
「やっぱ、ここじゃ出来ないね?うち来るか?」
「ふふふっ。うん、行く。」
こうして、俺の誤解から生じた二人の溝はあっという間に修復することが出来た。
俺はそれから演劇部に復帰して、全力でコンクールに向けての稽古を続けてるうちに、あっという間にその夏休みも終わってしまった。
そして、いよいよ明日が演劇コンクールとう前日に、差し入れを持ってあの松岡という人が現れた。
「ようっ、最後のリハーサル頑張ってるか?」
「あっ、松兄。」
「おう、大野、明日のコンクールだけど、うちの劇団の上の人間も観覧に行くらしいから、気合入れて行けよ!」
「本当に?」
「ああ。多分、コンクール優勝校からもスカウトすると思うから、これは結果次第じゃオーディションで合格貰うためのある意味チャンスでも有る。」
「そうか・・・頑張ります。」
「うん、っていうかさ、今回のコンクールは新人くんの演技力に掛かってるよなぁ。」
「えええっ?お、俺?」
「そーだぞ。いいか?大野の足引っ張ったらただじゃ済まねえからな。」
「先輩、プレッシャー掛けないでやってよ。」
「何を言ってる?俺はただ彼に頑張れってエールを送ってやってるだけだよ。」
いやいや・・・明らかにそれはプレッシャーでしょうが!そうか・・・明日は劇団からもスカウトに来るんだ。
まぁ、野球で言うところの甲子園と同じようなものだものな。
だけど、昨日まで芝居のいろはを知らなかった俺が、準主役ってやっぱどう考えても可笑しいんだよ。
もし、俺のせいで入賞すら出来なかったら・・・どうしよ。責任重大じゃん。
俺は、松岡って人のひと言で、急にプレッシャー感じてその重圧に耐えられず押し潰されそうになっていた。
つづく