恋愛小説
黄色い泪 最終話
それから1年半後・・・
「二宮、悪いけどさ、このブイ月曜日の午前中までに効果音付けて編集しといてくれる?」
「月曜日の午前中?」
「無理なら別のヤツに頼むけど。」
「あっ、いいですよ。俺やりますから。」
「悪いな。来週から特番続くから皆忙しくて手が回んないんだよ。」
「明日休みなんだけど、どうせやることないし、出勤してやっときますよ。」
「何だよ?彼女ぐらい居るだろ?若いのにやること無いって寂しい奴だな。思いっきり羽伸ばせるのは今のうちだけだぞ。所帯持ってみろ?俺みたいに残業だって言っても嫁は一切信じてくれないんだから。」
「へえ。それは地獄だな・・・」
「1回浮気がバレちゃったからな。俺も悪いのは悪いんだけどね。」
「フフフッ・・・」
「ほんじゃ、頼んだよ?」
「あ、了解でーす。」
あれから俺は社長の紹介でテレビ局の編集部に見習いで通うようになっていた。
制作で出来上がったVTRを細かくチェックしたり、効果音を入れたりテロップを付けたりする仕事だ。
編集はとにかく裏方とはいえ忙しい。次から次にVTRが押し寄せて来る。
最初は人手が足りないから、お手伝いとして入ってたんだけど、パソコンとか機械弄るのが好きだった俺はやり甲斐を感じてたし、忙しくしてる事で嫌な事も忘れる事が出来たから精神的にも凄く有難かった。部署の先輩達には可愛がられているし、完全に今はこの編集部に定着してる。
大野さんとは、あれっきり連絡を取っていない。っていうか、俺が着信を拒否してたから大野さんは連絡を取ろうとしていたのかもしれないけど、正直それすら分からない。
劇団の研修は1年と聞いてたから、もしかすると東京に戻って来てる可能性は有るけど、俺もあの人ももうそれぞれの道を歩き出してるんだし、元気で頑張ってくれてたら、それで俺は何も言うことはないよ。
「二宮くん、ごめーん。これ悪いけど制作に渡して来てくれる?チェック終わりましたって・・・」
「あ、はい。制作の誰に渡してもOKなの?」
「一応ディレクターに・・・」
「了解です。」
まだまだ俺はコマ使いが多い。でもそれは俺がここで最年少だから仕方がない。
俺は制作のスタジオの現場に行く為にエレベーターに乗り込んだ。
途中、ぞろぞろと関係者が同じエレベーターの中に乗り込んで来たから、俺はエレベーターの一番奥に後退った。
芸能人の誰かとそれを取り巻いたスタッフらしき人達が数人。
スタッフの身長が高くて、芸能人が誰なのか気になるけど視界を遮ってるからそれを確認できない。
「大野さん、東京の公演は来週からでしたっけ?」
「はい。来週の土曜日からですよ。」
えっ?大野・・・?まさかって思ったけど、聞き間違えるはずもない。その声は間違いなく大野さんだった。
「今日、この収録が終わったら何か予定とか有るんですか?」
「え?あ・・・うん。久し振りこっちに戻って来たんで、友達に会いに行こうかと思ってて。」
「彼女でしょ?」
「えええっ?違いますよ。」
チンッ・・・エレベーターが止まって扉が開いた。俺が降りなきゃいけないフロアだ。
俺は必死で大野さんに気付かれない様に顔を隠した。
「す、すみません、降りるんで通してください・・・」
逃げる様にエレベーターを降りた瞬間だった。
「待って!カズ?カズだよね?」
「ひ、人違いです!」
「ゴメン、先にスタジオ行ってて下さい。」
「え?お、大野さん?」
大野さんがそう言ってエレベーターを降りて俺の方にやって来るから、俺は自動的にその場を走って逃げた。
それでも大野さんは俺を捕まえようと必死で追い掛けて来る。
「まっ、待って!お願いだから、逃げないで!」
こんな狭いテレビ局の中を追い掛けっこしたところで、捕まるのは時間の問題。俺は観念してその場に立ち止まった。
お互い全力で廊下を走ったから、息が切れてしまい二人とも中腰になって呼吸を整えた。
「はぁはぁ・・・カズ・・・社長に聞いてはいたんだけど・・・まさかここだったなんて・・・」
「凄いですね・・・テレビにまで出るようになったんだ?もうスターですね。」
「そんなことないよ。来週から始まる舞台の宣伝で来たんだ。」
「こっちには・・・何時戻って来たの?」
「1週間前・・・あのさ、カズ?」
「もう、居ますよね?当然だけど・・・」
「えっ?」
「あなたくらいのスターにもなれば。・・・恋人の一人や二人。」
「うん。居るけど・・・」
「そ、そうなんだ。お、おめでと!頑張ってね。それじゃ俺は仕事有るから・・・」
もう、なんでそんな事聞いたりしたんだよ?俺ってどこまで馬鹿なの?
俺はやっぱり大野さんの事が好きで、一日たりとも忘れた事無かったくせに・・・やせ我慢して連絡を絶った自分が悪いの分かってるのに。往生際が悪すぎる自分に腹が立つ。
とにかくどうしようもなく泣きそうになるのを必死で堪えてその場を立ち去ろうとした時、大野さんが背中から俺のことをすっぽりと包み込むように抱き締めて耳元で囁いた。
「んふふっ・・・居るよ。恋人なら、ずっと前から・・・ここに。もう絶対離さない。」
「大野・・・さん?」
「こっちにマンション借りたんだ。一緒に暮らそう・・・最初っからそのつもりだった。」
それから俺は暫く大野さんの胸の中で号泣した。
何が何だかもう、頭の中はぐちゃぐちゃで分かんなかった。でも、一つだけハッキリしてる事・・・
それは、俺達の心があの出会った時のまんまだったってことかもしれない。
THE END
最後までお読み頂きまして有難うございました(‘◇’)ゞ
蒼ミモザ
お疲れ様でした。
最後はハッピーエンドだとわかってるけども、カズが大野さんから離れたときは、社長に紹介されたTV番組で人気者になって、大野さんと再開するのかな?と勝手ですが思ってました。残念というか、違ってて、あーまたハズレたかーと。勝手に妄想してて(笑い)
まさか編集をやってたなんて驚き👀‼️です。
いま思えば、野球部の先輩にいじめられてたのを助けたのが大野さんで、怪我であきらめててさそわれたのが、演劇部。なんか、全部つながっていたのだとおもいます。
ハッピーエンドで終わってよかった。
感想がまとまらなくてスミマセン
また、次のお話楽しみにしてます。
3240様、こんばんは(^^)
いつも読んで頂き、有難うございます。
期待を若干裏切るラスト?だったでしょうか(^^ゞニノちゃんはリアルに若い時に裏方の仕事がしたかったって言ってましたよね。
それを思い出して編集に携わるという形で終わらせました。
いずれにしましても、大宮はハッピーエンドが一番ですね♪
また新作スタートした時は、是非お付き合い下さいませ。
ご感想、有難うございました☆