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黄色い泪27
それから30分位して大野さんが俺の家までやって来た。家に上がるように言ったけど、直ぐに戻るからと言われて近くの公園へ二人で向かった。
街灯が灯ってるベンチに腰掛けて大野さんが俺に茶封筒を手渡した。
「え?何?」
「いいから中見て!」
「う、うん・・・」
それは劇団からのオーディションの合格通知だった。
「うわっ!おめでとう!」
「カズに一番に知らせたくて。」
「良かったぁ。遅れてたから心配してたんだ。」
「二枚目も見てくれる?」
「二枚目?」
合格の通知の用紙の下に、もう一枚書類が重なってた。俺は言われる通り、その書類に目を通した。
「・・・え?これって、どういうこと・・・?」
そこには、10月から研修が始まる事が書かれてあった。しかも・・・その研修は京都となっていた。
「俺もちょっと驚いてるんだ。研修があることは松兄からも聞いてたけど、まさか京都だなんて・・・」
「し、しかもこの研修って1年も?」
「ああ・・・」
「そ、そんなぁ。」
「ね、聞いて・・・1年は京都に住み込みで研修だけど、それが終われば東京に戻って来れるし、休日使って帰って来れない事も無いしさ。カズも俺が居たら勉強にも集中出来ないだろうから、丁度いいんじゃないかなって思うんだ。」
「やだっ!」
「カズ?」
「1年も離れ離れなんか信じられない。大野さん、絶対俺以外に好きな人出来るよ。そんなの絶対嫌だ。」
「俺だってカズにこうして逢えなくなるのは寂しいよ。」
「嘘だ!本当は俺と会えなくなってせいせいするんでしょ?」
「カズ、そんなに俺の事信じられないの?」
「そうじゃないけど・・・嫌だよ。京都なんて・・・遠すぎるよ。」
「俺はカズ以外の誰かを好きになったりしないよ。絶対に約束する。」
「大野さん・・・」
「やっぱり直接会いに来て正解だった。電話でこの事伝えても話にならないと思ったもの。」
「10月ってもうあと2週間しかないじゃない・・・」
「うん・・・」
「この研修行かなければ入団は取り消しになっちゃうの?」
「恐らくね。」
「俺も・・・俺も京都に行く!」
「え?あぁ・・・夏休みとか?」
「ううん。そうじゃない。俺も大野さんと京都で1年間暮らす。」
「はっ?む、無理だよ。学校はどうするの?」
「勿論辞める。」
「えええっ?か、カズ、ちょっと落ち着こうか?」
「俺は本気だから!」
「き、気持ちは分かるけどさ・・・だいいちご両親が聞いたら反対されるに決まってるよ。」
「説得する。親が許してくれたら俺も一緒に京都に行くから。いいでしょ?」
「そ、そりゃあ構わないけど・・・許してなんて貰えるかな?」
「絶対何とかするから!」
「カズ、俺マジで浮気とかしないよ?ちゃんと休日には会いに来るし・・・」
「いいの。俺に考えが有るから!」
大野さんはとにかく俺の発言に困惑してた。そりゃあ、いきなり学校辞めて着いてくって言われたら戸惑うだろう。
だけど、俺にも最終手段は残されてる。そうだよ・・・あの社長に頼んで俺も京都に行かせてくれと頼み込めばいいことだ。
そう考えたら、やっぱり早まって断んなくて正解だったな。とにかく俺の劇団への入団の話を早く進めなきゃ。でないと、学校の退学の手続きも有るだろうから。
「大野さん、京都って行った事あります?」
「えっ?あ、うん・・・」
「俺行ったこと無いんだ。休みは二人で色んなとこ遊びに行きましょうね。」
「ほ、本当に学校辞める気なの?」
「大野さんは何にも心配しないで下さい。絶対あなたに迷惑は掛けませんから。」
俺は不敵な笑みを浮かべてそう言い放った。まだ今の段階で大野さんにスカウトを受けてる事を言うのはやめておこうと思った。
全ては京都行きを決めてからでいい。
俺の中で、大野さんと離れ離れになる事は一番あってはならないこと。例え大野さんが嫌がったとしても俺は大野さんに着いて行くと心に決めた。
つづく