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黄色い泪28
次の日、俺は早速親に学校を辞めて役者になりたい、一流の劇団の社長からスカウトを受けた事を告げた。
最初は全然本気にして貰えなかったけど、とにかく必死で社長に会わせるところまで段取りは出来た。俺の口からどんなに説明したところで、信用してくれないんだから、直接会わせた方が話は早い。
その週末に社長は俺の家にやって来た。
「・・・そういうわけで、和也君が役者を目指すと決心してくれたんで、私が責任持って彼を役者に育てたいと思います。但し、それには今通っている学校は退学して貰わないといけません。」
「あの、それは何も今じゃなくたって、卒業してからじゃ駄目なんでしょうか?」
「正直言わせて貰えば、むしろ今でも遅いくらいです。」
「で、でも・・・幾ら何でも高校くらいは卒業しておかないと・・・」
「お母さんのお気持ちは分かります。ですが、往年の映画俳優達は皆子役から活躍しているのはご存知でしょう?俳優業に必要な学力は義務教育までです。どうしても本人が大学に通いたいとい言うのならば、それは後からでも十分可能なことです。」
「うちの子、素質なんて本当にあるんでしょうか?」
「私の目に狂いはないと思っていますよ。」
「はぁ、ですが・・・この子が本気で役者になりたいって思ってるのか・・・」
「まぁ、取っ掛かりは好奇心でも何でも構わないです。後は確かに本人のやる気次第ですが、私に息子さんを託して頂く以上は責任を持ってお預かりするつもりです。」
「はぁ・・・」
「あ、あのぉ・・・」
「ん?二宮くん、何だい?」
「俺、劇団に入団したら京都で研修さして貰えるんですよね?」
「京都?あぁ~、良く知ってるね。うちは新人教育は京都の舞台と決めてるんだけど。それが、何か?」
「いえ、そこを確認しておきたかったんで・・・」
「そうそう、このパンフレットに目を通しておいて下さい。ここに研修期間の事やうちの劇団の規約も書かれてる。あと、うちとしては直ぐにでも来て貰いたいが、準備も有るでしょうから、京都へは11月から行って貰う事になると思うんで、そのつもりで。」
「きょ、京都?」
母さんが再び心配そうな声をあげた。
「あー、京都と言ってもご心配なく。うちには管理人付きのちゃんとした合同宿舎が有るんで、住まいや食事等の心配も一切要らないんで。」
「でも・・・この子一人では何にも出来ないんですよ。」
「お母さん、可愛い子には旅をさせよ・・・ですよ。男の子は早く自立させた方がイイんです。」
「そうだよ。母さんは心配し過ぎなんだよ。」
「あんたは黙ってなさい。あの、このお話は良く検討させて頂いてからまたお返事させて貰います。宜しいでしょうか?」
「それは勿論・・・ですが、一日も早くご決断を頂きたい。出来れば期限を決めさせて頂きたい。来週末までにご連絡が無ければこの話はなかったことに。」
「分かりました・・・」
「それでは、良い返事をお待ちしていますよ。」
社長はそう言い残して帰って行った。
あれ程疑ってた親も、直接社長に会ってそれが真実だということを認めざるを得なくなった。
「カズくん、どうする気?」
「どうするって、俺は劇団に入団するから。」
「だって、役者で本当に将来食べていけるなんて、母さんは思えないんだけど。」
「母さん、劇団ジャニーと言ったらさ、プロ野球で言うと巨人軍だよ。社長直々に来てくれるって事はね、俺一位で指名されたのと同じことなんだよ。」
「でもプロ野球とは世界が違い過ぎるわ・・・」
「あのさ、野球選手は選手生命短いけど、役者だと死ぬまで舞台に立てるって話だよ。全然役者の方が将来的に考えてもいいに決まってるよね。」
「でも、学校辞めるなんて・・・」
「元々俺は野球のスカウトであの学校に入学したわけだしね。もう野球出来ないんじゃ意味ないとも思ってたし。」
「ひとつ確認なんだけど、本当に役者なんて興味あるんでしょうね?勉強したくないから言ってるんじゃないでしょうね?」
「ち、違うよ。そんなわけないじゃん。それにさ、取っ掛かりなんてどうでもいいってあの社長さんも言ってたじゃん。」
「もう、父さんも何か言って下さいよ!」
「いいんじゃないか?本人が決めれば・・・」
さすがは父さんだ。話が分かる。
「但し、失敗してもそれは自分でなんとかしろ。後から泣きついてきても俺は知らんからな。」
「わ、分かってるよ。」
結局は父さんのひと言で全てが決まった。こうして俺は、なんとか親を説得することが出来て、劇団に入るという段取りが整った。
つづく